月経前症候群(略称:PMS)という病気は、定期的に訪れる月経周期前の3日から10日前後の日程で続く精神的な不調や身体的な関連症状の総称を指しており、通常では月経が開始すると共に症状が軽快または消失する状態を意味します。

今回は、月経前症候群がどのような病気なのか、その病気の原因、症状、治療などを中心に詳しく解説していきます。

月経前症候群とはどのような病気か

本邦では、定期的に訪れる月経や生理周期を有する女性のおよそ8割の方々が月経前に何らかの症状があると指摘されています。

さらに、それら症状が日常的な生活に支障や困難をきたすほどに強く出現する割合は女性全体のおおむね5%前後と伝えられています。

特に、思春期前後の女性では月経前症候群の罹患頻度が通常よりもさらに多くなるとの報告もされています。

月経前症候群では、月経が訪れる前に約3日間から10日間程度継続する精神的あるいは身体的な不調症状を呈する状態であることが知られており、月経が開始するにつれて自覚症状が軽快ないし消失するのが特徴のひとつです。

また、月経に関連した精神的な不調や身体的症状を認める場合を月経前症候群(略称:PMS)、そしてその重症化したタイプを月経前不快気分障害(略称:PMDD)と呼称しています。 

月経前症候群の原因

一般的に、女性には個々に若干の違いはありますが、おおむね25〜38日間の性周期があると言われており、月経の始まりから月経終了、そして次の月経が訪れるまでがひとつの周期的なサイクルが形成されています。

そうした性周期の前半部分では、女性ホルモンのひとつであるエストロゲンというホルモンが多く分泌されて、卵巣内部の卵胞自体が成熟する「卵胞期」という段階が訪れます。

その後、性周期の前半が開始されてから14日目前後に成熟した卵胞から卵子が排出されて排卵される流れが自然です。

排卵した後には妊娠準備のために黄体からエストロゲンと異なるもうひとつの女性ホルモンとして知られているプロゲステロンが生理的に多く分泌されるフェーズが訪れます。

この時期は「黄体期」と呼ばれており、およそ2週間ほどして妊娠が成立しなければ、妊娠するために準備されていた子宮内膜が剥脱して月経が生じることによって、次の性周期に移行する運びとなります。

個々のケースによって大きく症状の重症度が異なる本疾患の明確な原因は判明していませんが、排卵後に訪れる月経前のいわゆる黄体期に分泌される女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンの分泌量が急激に変動することが発症と深く関与していると想定されています。

これらの黄体期の後半に卵胞ホルモンであるエストロゲンと黄体ホルモンと呼ばれるプロゲステロンが急激に変動して分泌低下することで、脳内ホルモンや神経伝達物質の異常を引き起こすことに繋がり、月経前症候群を引き起こす直接的な原因と考えられています。

なお、月経前症候群は女性ホルモンの低下だけが原因ではなく、日々の過剰なストレスなどによって脳内のホルモンや神経細胞に関連する伝達物質が悪影響を受けて発症するとも指摘されています。

月経前症候群の症状

月経前症候群の精神症状としては情緒不安定、ちょっとしたことでイライラ感を募らせる、抑うつ症状、不安を抱いて睡眠が障害されることなどが挙げられます。

自律神経症状としては、全身ののぼせ感や食欲不振、頭重感やめまい症状、倦怠感や疲労感などを自覚することも経験されますし、身体的症状は、腹痛、頭痛、腰痛、全身のむくみ、そして乳房の張りなどの症状を自覚することも多いと言われています。

急な環境の変化や、ハードワークによる緊張状態が続いた時など、ストレスがたまっていると、月経前症候群の症状を自覚しやすくなることが知られており、基本的には性格的に律儀で真面目、几帳面で完璧主義の方では月経前症候群の症状を認められやすいと考えられています。

また、カフェイン入りのコーヒーを普段からよく飲む場合、バランスの悪い食事をしている場合、あるいは風邪や病気で免疫力が低下して自律神経が乱れている際には月経前症候群の症状が重症化する傾向が認められます。

月経前症候群には主に身体症状と精神症状があり、いずれにしても非常に多彩な症状が出現することが特徴のひとつであり、これらの症状は月経が訪れる3日から10日程度前から始まって月経開始と共に改善傾向を示すことが多いです。

精神症状を顕著に認める場合は、月経前の不快な気分障害を認めるタイプもあることが知られており、特に精神神経症状や精神状態の悪化所見がひどい際には、月経前症候群と違って月経前不快気分障害(英語表記:premenstrual dyspholic disorder : 略称PMDD)の可能性もあります。 

月経前症候群の治療

一般的に、月経前症候群に対する治療策のひとつの手段として、薬物による治療、あるいは薬にたよらない治療方法が検討されます。

医療機関では、月経前症候群の症状と類似している気分障害やうつ病などの精神神経疾患と鑑別することも重要な視点となります。

月経前症候群と診断された際には、比較的症状が軽微な場合には生活カウンセリングや生活習慣改善のための衛生指導が実施されます。

月経前症候群に随伴する症状を改善させるためには、有酸素運動を主体とした適度な運動、禁煙、節酒、そして日常生活におけるストレスの解消方法などを中心に指導を行います。

重症な場合には、イライラ感や怒り感情が強くなって他者を無意識に罵倒することもあるだけでなく、そういった症状を周囲に十分理解してもらえないしんどさから自ら社会から離脱して引きこもりになるケースもあります。

普段の日常生活では、自分のライフリズムを知って気分転換やリラックスする時間を出来るだけ設ける、あるいは自分が心地良いと思えるようなセルフケア方法を検索して探してみるのも月経前症候群の症状を改善させる治療策になる可能性があります。

月経前に月経前症候群を疑う悩ましい症状を自覚した際には、それらの出現症状を自分なりに記録して、月経周期との関連性を確認することも重要なポイントです。

月経前に情緒不安定になっているのは、神経が緊張して興奮している状況が考えられると同時に、女性ホルモンのバランスも乱れている可能性が考えられ、女性ホルモンのバランスを整えるためにコーヒーや紅茶などのカフェインが多量に入っている飲料を出来る限り控えましょう。

また、情緒不安定を緩和させて精神状態を安定させる作用を有するビタミンB群、カルシウム、マグネシウムなどのビタミンやミネラル成分を積極的に摂取するように心がけましょう。

植物のエストロゲンとも呼ばれる女性ホルモンに似た働きのある豆腐、豆乳などに含まれるイソフラボンやブロッコリーなどに含有されている神経伝達物質の代謝に関与しているビタミンEを摂取してリラックスできる場合もあります。

精神神経症状や自律神経症状に対しては、精神安定剤や選択的セロトニン再取り込み阻害薬などの薬物療法(脳内の活性物質セロトニンを維持する治療法)を使用することがありますし、市販のサプリメント療法、漢方薬を使用する東洋学的漢方療法やピルなどを用いた排卵抑制療法(排卵を抑える治療法)も月経前症候群の症状を緩和させる治療選択肢のひとつと言えるでしょう。

まとめ

月経前症候群は、通常では月経が開始する3日から10日ほど前から吐き気や頭痛、眠気などの身体的症状や不安感やイライラする感情など精神的に不快な症状を呈することが知られており、これらの症状は月経が開始すると同時に改善していくのが特徴として挙げられます。

一般的に、月経のある女性の大部分は月経前に何らかの不快症状を感じると言われています。

日常生活に支障を来すほどの症状を認める場合には月経前症候群を疑い、その症状が軽度な場合には、生活習慣の改善などを行うことで状態が改善することも多いと考えられています。

一方で、症状が重症化すると著しい気分変調を来す気分障害と呼ばれる精神疾患のひとつとして捉えられることもありますので、できるだけ事前に月経前症候群にならないために工夫して対策を講じることが重要なポイントです。

具体的にいつからひどい症状が出現して続くのかをセルフチェックした上で病院の担当医に相談して、適切な診断に結び付けてもらうようにしましょう。

今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。


【参考文献】

記事の監修者

佐々木真由先生

佐々木真由先生

医療法人社団福美会ヒロクリニック 心療内科
日本精神神経学会専門医
佐賀大学医学部卒業後、大学病院、総合病院で研鑽をつんだのち、ヒロクリニックにて地域密着の寄り添う医療に取り組んでいる。

経歴

2008年 佐賀大学医学部卒業
2008年 信州大学医学部附属病院
2011年 東京医科歯科大学医学部附属病院
2014年 東京都保健医療公社 豊島病院
2016年 東京都健康長寿医療センター
2018年 千葉柏リハビリテーション病院
2019年〜 ヒロクリニック

資格

日本精神神経学会専門医
日本精神神経学会指導医
精神保健指定医