大事な試験のときなど誰でも緊張するのは当たり前の反応ですが、不安感や恐怖心が過度になって日常生活に大きな影響が出現する場合には、全般性不安障害の可能性があります。
今回は、全般性不安障害の発症原因や症状、治し方などについて解説していきます。
全般性不安障害の特徴
全般性不安障害とは、日常の様々な出来事に対して不安感情や恐怖心が訳もなく漠然と半年以上続く精神疾患であり、学校や仕事における活動などについて過度な心配、恐怖感が継続している状態と考えられています。
自分にとって大切な試験や人前での発表、初対面の人と会話する状況の際などにおいて、不安と緊張を感じて心臓がどきどきするのは、誰にとってもごく当たり前のリアクションであり、ほとんどのケースでは多少緊張しても、自分なりに実行することができます。
ところが、危険でない状況においても他人と違い恐怖心を過剰に自覚して、心配する気持ちが強すぎて実行すべきことができなくなるなど、普段の日常生活がうまくいかずに支障をきたしている人は、全般性不安障害という精神疾患に罹患している可能性が懸念されます。
本疾患における発症の好発年齢は30歳前後の青年期と言われていますが、発症年齢の範囲は幅広くて思春期以前に発症するケースは稀ですが、中年期以降の年齢層での発症例も多く、特に女性は男性の2倍程度発症リスクが高いと考えられています。
特定の場面や物に対してだけではなく、学校での成績や仕事の内容など様々な事象に対して過剰な不安と心配を感じて、しかもその心配を自分でコントロールするのが困難であると感じている場合は、全般性不安障害の可能性があると言われています。
全般性不安障害の発症原因
全般性不安障害を発症する原因はいまだに明確に判明していませんが、もともと神経質の性格の場合や遺伝的な要素、あるいは現在直面しているストレスに伴う過労や自律神経の乱れなどが発症原因に関連していると指摘されています。
本疾患は、単純な原因をもとに発症するわけではなく、周囲の環境要因や遺伝的要因などが複雑に関与することで病気の発症に至ると考えられています。
また、一般的に物事をネガティブに捉える傾向を持つ人や、親族内で全般性不安障害や同様の不安神経症を抱える人が存在する場合にも本疾患を罹患する危険性は高く、幼少期の家庭環境、慢性的な身体疾患や健康障害の存在なども発症リスク因子に関与していると伝えられています。
さらに、この病気の発症要因としてうつ病やパニック障害などを始めとする精神疾患との関連性も指摘されているだけでなく、これらの病気が同時に併発して認められる例として専門医療機関で診断されることも少なくありません。
全般性不安障害の症状
全般性不安障害という病気では、果てしなく尽きることのない恐怖心と心配な気持ちを自覚するために、徐々に少しずつ身体症状や精神症状が出現するようになり、そうした不安感情がさらに悪循環を引き起こして症状悪化することが特徴的に認められます。
本疾患では、日々の生活における様々な活動、家庭教育環境や勤務内容、学業進捗状況、経済面や健康課題などを含めて過度の不安や緊張といった感情を抱く症状が見受けられます。
こうした日常的な出来事や多種多様な言動動作に対して過剰に反応して、常に最悪のシナリオや状況を想定して不安を払拭できずに休職に繋がることも少なくありませんし、不安感情に支配されてしまうことによって色々な症状が慢性的に持続することが知られています。
具体的には、身体症状として疲労感、筋緊張、不眠、嘔気、動悸、めまい、頭痛、便秘や下痢、頻尿、手足の冷えや熱感などの症状が挙げられます。
また、精神症状としては、些細な事柄に不安や恐怖を覚える、記憶力が減退する、注意力が散漫になる、常に怒りっぽくなりイライラする、何事にも悲観的に捉えてしまう、人間関係が煩わしくなって周囲関係が希薄になる、寝つきが悪くなり夜中に何度も起きてしまいます。
全般性不安障害においては、多くの出来事や活動に対して不安感や予期憂慮といった感情が日常的に漠然と慢性的に継続して、自己ではなかなか抑制して制御することができない心配が持続することから、日常生活を円滑に過ごすことが難しくなります。
全般性不安障害では、長期間に及んで一貫して不安を感じることから、すっきりと気持ちが晴れることがなく、慢性的な倦怠感や過度の発汗などの身体症状を合併することも経験されますし、そわそわして落ち着かない、集中力が乏しく仕事ができない、学力が低下する例もあります。
全般性不安障害の治し方
この病気では、自分ではなかなか抑制できない不安感や心配な想いが持続して、普段の生活を円滑に送ることができなくなることが知られており、過剰な不安や恐怖心が日常生活に支障を来す場合には積極的な治療対象となることが多いと考えられています。
不安障害の患者さんでは、基本的には薬物療法や精神療法を用いて治療に当たって症状を克服することになります。
薬物療法に関しては、近年選択的セロトニン再取り込み阻害薬(略称:SSRI)を中心とした抗うつ薬が治療ガイドラインにおいて第一選択薬として取り上げられています。
特に、強迫的で被害的内容を伴う不安症状が顕著に認められる際には選択的セロトニン再取り込み阻害薬を処方選択されることが多いと言われています。
それ以外にもよく知られている有効な薬物として、漢方薬、β阻害薬、ベンゾジアゼピン系抗不安薬などが挙げられ、これらの薬剤を上手に調整して症状を効果的に制御することを目指します。
また、精神療法を実践することで日常的に抱えている不安要素や心配事に対する具体的な対策を自分なりに学習して、現実的に不安感を抱く出来事や事象に向けて健常人と同じように正常範囲に適切に認知して行動対処できるように訓練を積み重ねることも治療の一環となります。
精神療法とあわせて効果的な薬物を組み合わせて精神症状をコントロールして、不安や緊張感などの感情に対する対応策を実際に学習することで、リラックスした状態で日々の生活を過ごすことができるように取り組んでいきます。
また、日常的に十分な睡眠時間を確保して睡眠の質をあげるためにカフェインやアルコール成分、ニコチンを出来るだけ摂取しないように回避することや継続的に運動習慣を身につけることも適切な治療方法の一つとして推奨されています。
まとめ
全般性不安障害では長期にわたって持続して不安感を自覚してすっきりと気持ちが晴れやかになることが少なく、有効な薬物を使用して不安症状を制御する、或いは不安や緊張などの感情を上手くコントロールする方法を実際に学ぶことで快適な日常生活を送ることを目指します。
この病気では、日常生活が著しく制限を受けることも往々にして考えられますので、少しでも不安感が少ない生活を過ごすことができるようになるために、精神科や心療内科など専門医療機関での指導のもとで適切な治療策を実施することが症状改善のために重要なポイントとなります。
お悩みの際は、ぜひヒロクリニック心療内科へご相談ください。
【参考文献】
- 厚生労働省 – 10代、20代のメンタルサポートサイトHP:不安障害
- J-STAGE – 不安障害に対するエクスポージャー法と系統的脱感作法―基礎研究と臨床実践の交流再開に向けて― 基礎心理学研究. 2018 年 36 巻 2 号 p. 243-252. /遠座 奈々子, 中島 定彦
記事の監修者
佐々木真由先生
医療法人社団福美会ヒロクリニック 心療内科
日本精神神経学会専門医
佐賀大学医学部卒業後、大学病院、総合病院で研鑽をつんだのち、ヒロクリニックにて地域密着の寄り添う医療に取り組んでいる。
経歴
2008年 佐賀大学医学部卒業
2008年 信州大学医学部附属病院
2011年 東京医科歯科大学医学部附属病院
2014年 東京都保健医療公社 豊島病院
2016年 東京都健康長寿医療センター
2018年 千葉柏リハビリテーション病院
2019年〜 ヒロクリニック
資格
日本精神神経学会専門医
日本精神神経学会指導医
精神保健指定医