汗は体温が上がり過ぎないように身体の熱を冷ます”うち水”のような役割があります。しかし快適な温度の環境下で急に汗が吹き出るといった異変が現れた場合、病気が原因であることも。この記事では多汗にまつわる病気や、受診すべき診療科の説明をいたします。
健康的な汗と危険な汗の見分け方
ヒトは運動や高気温の環境下によって汗をかき、体温をコントーロルしています。車のエンジンがオーバーヒートにより壊れてしまうように、私たちの身体も体温が上がりすぎると臓器に異常をきたし、生命の危機を招きます。そのため、ヒトの身体は汗をかき、汗が蒸発することで身体を冷やすのです。このように、体温を一定に保つための汗を「温熱性発汗」といい、ヒトの身体に備わった機能となります。
温熱性発汗のほかに、緊張や不安によっても汗をかきます。これを「精神性発汗」といい、温熱性発汗と汗をかく部位が異なります。温熱性発汗は手と足の裏をのぞく全身に汗をかき、精神性発汗は脇と手、足の裏に短時間かく汗とされています。
その他、日常的に見られる汗は「味覚性発汗」があり、これは唐辛子など辛いものを食べた時など、おもに顔にかく汗のことをいいます。これらは健康な方であれば誰しもがかく汗であり、一時的であれば問題はありません。しかし、強いストレスや病気によって引き起こる危険な汗も多くあります。
汗が止まらない!考えられる病気とは
危険な汗の特徴として、「急に汗が出る」「寒くないのに(暑くないのに)汗をかく」「寝ている時に汗をかく」などが挙げられます。これらの多汗症状は、さまざまな病気によって引き起こされている場合があるため、異変を感じた際は早めに医師へご相談ください。
●自律神経失調症
自律神経とは、心臓や呼吸・体温調節・消化など、ヒトが生きていく上で欠かすことのできない機能を無意識下でもコントロールしている神経のことです。一方、走る・座るなど自身の意思で動かすための神経を運動神経といいます。
自律神経は「交感神経(興奮・緊張)」と「副交感神経(リラックス)」2種類の神経が、まるでシーソーのようにバランスをとり身体の機能を調節しています。日中の仕事や運動時には交感神経が優位となり、休憩や睡眠時には副交感神経が優位となります。このバランスが崩れてしまうことを「自律神経失調症」といいます。
自律神経失調症の原因はさまざまです。強いストレスや過度の緊張状態が長期間続く、または慢性的な睡眠不足、環境の変化などが挙げられます。本来、副交感神経が優位になるはずの睡眠時に交感神経が優位となり、目が冴えてしまうなど興奮・緊張とリラックスのバランスが崩れてしまうことで、身体に大きな負荷がかかってしまうのです。
自律神経はすべての器官を支配しているため、多くの症状があらわれます。その症状が他の病気を引き起こすといったことも少なくありません。また自律神経失調症の症状のなかには「何もしていないのに異常なほど汗をかく」といった多汗症状が多くみられます。
緊張する場面でないにもかかわらず、脇や手のひら・足の裏などに大量の汗をかいてしまう場合は、自律神経失調症が疑われます。また、この汗は制汗剤などで抑えることはできません。医師の診察を早めに受けましょう。
●更年期
更年期とは一般的に45〜55歳頃、閉経を挟んだ前後約10年間のことを指します。閉経に向けて変化する身体に対応できず、さまざまな不調や不快な症状を「更年期症状」といいます。症状には個人差があり、症状が軽い方から重い方までと幅があるとされています。
更年期症状は加齢により卵巣機能が衰え、エストロゲンの分泌が出にくくなることで起こります。エストロゲン分泌をコントロールする脳の下垂体が、卵巣にエストロゲン分泌を何度司令しても卵巣がエストロゲンを分泌しないため脳の混乱を招き、やがてそれが自律神経に伝わることで、さまざまな症状を引き起こすとされています。更年期症状と自律神経失調症の症状が似ているといわれるのはこのためです。
更年期症状は多種多様です。おもな症状はホットフラッシュと呼ばれる、顔のほてりやのぼせ・イライラ・不眠・動悸が挙げられます。また自律神経失調症同様に、「寒いのに汗をかく」・「急に汗をかく」など、多汗症状も少なくありません。
女性が45歳を過ぎて、上記のような症状が続くようであれば、婦人科で更年期検査(血液検査)を受けると良いでしょう。症状の原因が更年期症状なのか、自律神経失調症なのか、検査結果によって治療方針が異なります。もちろん、それ以外の病気が隠れている場合もあることから、身体の不調や異常な汗に気づいた際は早めの受診が大切です。
●甲状腺機能亢進症
甲状腺とは、のど仏のすぐ下にある蝶が羽を広げたような形の臓器のことです。甲状腺は身体の代謝や成長を調節する甲状腺ホルモンをつくります。甲状腺機能亢進症とは一般的に「バセドウ病」と呼ばれ、甲状腺機能亢進症の原因は未だ解明されていません。甲状腺ホルモンが過剰に分泌されてしまう、女性に多い病気です。
おもな症状は、甲状腺の腫れ・眼球突出・疲れやすくなる・イライラ・食事をしても痩せてしまう・脈が速くなる・動悸などが挙げられます。また暑がりとなり「寒いのに汗をかく」といった症状も多くみられます。一方、甲状腺機能低下症は寒がりとなり「汗をかかない」といった症状が現れます。
甲状腺機能亢進症の治療法は、一般的に薬物療法です。その他には放射性ヨウ素(アイソトープ)治療、手術の3つの方法が挙げられます。
甲状腺機能亢進症の中には妊娠による一過性のものがあります。妊娠8〜12週くらいに甲状腺ホルモンが高くなるケースも少なくありません。しかしこの場合は一過性のため、自然治癒が見込めます。
いずれにせよ検査が必要とされるため、首元の腫れや、寒いのに汗を異常にかくといった症状を感じた際は早期受診を心がけましょう。
●低血糖
低血糖とは、ヒトの身体の血糖値が低下した際に、脳などがエネルギー不足の状態に陥ることです。その時に出るさまざまな症状のことを、低血糖症状といいます。血糖値はおよそ70mg/dL以下になると交感神経症状が現れ、おもに脈拍が速くなる・顔色が青白くなる・手足の震え、そして「汗をかく」といった自律神経症状が引き起こされます。
低血糖症状の原因はさまざまで、ダイエットによる炭水化物(糖質)の不足・空腹時の運動・インスリンなど薬の過剰摂取が挙げられます。低血糖症状は重症化すると昏睡や命の危険にかかわるため注意が必要です。とくに脳の代謝に必要な栄養素は糖質のみであることから、過度な糖質制限などはおこなわないようにしましょう。
万が一、低血糖とみられる症状が現れた際は、甘い飲み物や食べ物で応急処置をおこなうことが大切です。医療機関では初期の低血糖症状であれば、グルコース(ブドウ糖)点滴などで処置をおこないます。過度なダイエットなど一時的な低血糖症状であれば、食生活を見直すことで改善します。しかし、思わぬ病気が隠れている場合も少なくないため、血液検査などで低血糖症状を引き起こした原因を検査することが大切です。
●悪性リンパ腫(B症状)
悪性リンパ腫はホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫の大きく2病型に分かれ、寝汗をかくなどの全身症状を伴うとB症状ありと分類されます。リンパ球ががん化・増殖し、リンパ腫細胞から炎症を引き起こす物質により、激しい寝汗をかいてしまいます。盗汗(とうかん)とも呼ばれ寝具が濡れ、睡眠が妨げられるほど大量の汗が特徴です。
悪性リンパ腫は年齢や進行状態によって治療方針が異なります。おもに薬物療法や放射線療法、造血幹細胞移植などが挙げられます。
悪性リンパ腫以外にも感染症など、激しい寝汗をかく病気は少なくありません。睡眠が妨げられるほどの激しい寝汗が続くようであれば、一刻も早い受診が必要です。
汗による受診の目安とセルフチェックポイント
もともと汗っかきの場合、多汗による受診を迷う方も少なくありません。なお、病気が疑われる汗には下記のような症状が挙げられます。セルフチェックをおこない、ひとつでも当てはまるようであれば、早めの受診が必要とされます。
- 寒いのに汗をかく
- 暑くないのに汗をかく
- 顔がほてり吹き出すような汗をかく
- 脇や手のひら、足の裏に大量の汗をかく
- 汗で書類やパソコンがびしょ濡れになり生活に支障がある
- 寝汗でパジャマやシーツがびしょ濡れとなり目が覚める
このように日常生活に支障をきたすような汗をかく際は、早めに医師に相談しましょう。
汗が止まらない場合に受診すべき診療科目
発汗には自律神経が大きくかかわります。脇汗のニオイなどの悩みであれば皮膚科を受診すると良いでしょう。症状や治療法によっては保険適用となります。
しかし、吹き出すような汗や、多汗以外にも不眠・動悸などの症状がある方は自律神経失調症の可能性が考えられます。内科などで検査をおこなっても多汗の原因が分からない、または疲労感やうつ症状、イライラなどの症状のある場合は心療内科を受診してみましょう。
止まらない汗は必ず早期受診を
インターネットには「多汗症 治し方」「自律神経失調症 自分で治す」などの検索ワードが多く見られます。もちろん多汗症状を治すために生活環境を整えることや、心穏やかに過ごすことはとても大切です。しかし、多汗症状には重篤な病気を原因とすることも少なくありません。安易な自己判断をおこなわず、必ず医師へご相談ください。
ヒロクリニック心療内科では、これまで多くの多汗をともなう症状の患者さまの治療にあたってきました。また、ヒロクリニックは総合医療クリニックであり、内科や皮膚科も併設されております。各診療科の医師が連携をとり、適切な治療をおこなうことで多汗症状の早期回復を目指すことが可能です。
多汗のお悩み、身体と心の不調をぜひ一度お聞かせください。多汗の原因を特定し、一日でも早く快適で健康的な生活を取り戻しましょう。
【参考文献】
- 看護ルー – 発汗 体温とその調節
- ドクターズファイル – 汗がとまらないの原因と考えられる病気一覧
- 京都医療センター – 甲状腺の病気について
- 糖尿病情報センター – 低血糖
- 愛知県がんセンター – 悪性リンパ腫の症状
記事の監修者
佐々木真由先生
医療法人社団福美会ヒロクリニック 心療内科
日本精神神経学会専門医
佐賀大学医学部卒業後、大学病院、総合病院で研鑽をつんだのち、ヒロクリニックにて地域密着の寄り添う医療に取り組んでいる。
経歴
2008年 佐賀大学医学部卒業
2008年 信州大学医学部附属病院
2011年 東京医科歯科大学医学部附属病院
2014年 東京都保健医療公社 豊島病院
2016年 東京都健康長寿医療センター
2018年 千葉柏リハビリテーション病院
2019年〜 ヒロクリニック
資格
日本精神神経学会専門医
日本精神神経学会指導医
精神保健指定医