「朝からお酒を飲まずにいられない」「やめようと思えばいつでもやめられる。病気なんかじゃない」アルコール依存症は他の疾患と大きく異なり、自分だけじゃなく周囲を巻き込み、とてつもない大きな問題になってしまいます。まずは正確に知って下さい。必ず役に立ちます。

1 アルコール依存症とは

1−1 症状・診断基準

アルコール依存症は、長い期間大量にお酒を飲み続けることによって進行し、アルコールに対し病的に強い欲求をもちお酒無しではいられなくなる病気です。わかりやすく言えば自分でお酒の量を調節できないんですね。初めは単なる習慣のつもりで飲んでいても、お酒を飲まないと気分が晴れず、お酒に頼ってつい手が出るようになり、耐性がついてくるのでそのうち少量では酔えなくなっていきます。さらにアルコールが切れるとイライラする、不安になる、手が震える、夜眠れない、汗をかく、食べたものを吐くなどの症状いわゆる“離脱症状”が出てきます。また、一度お酒を飲み始めるとひたすら飲み続け、食事も摂らずに飲んで寝る、を繰り返すこともあり、通常の規則正しい生活を送れなくなってしまう場合もあります。

アルコール依存症はお酒を飲む人なら性別・年齢を問わず誰でもかかる可能性のある病気です。患者数は、全国で100万人を超えると言われていますが、実際に依存症の専門治療を受けている方は、その中の数万人にすぎません。

1−2 離脱症状が見られる

アルコール依存症の患者さんでは、体内のアルコール濃度が下がってくるとさまざまな離脱症状が見られます。脳というのは非常にアルコールに強い影響を受けます。アルコール依存症になるとその酔っている状態が「通常である」というように脳は認識するようになってしい脳の思考力、判断力、記憶力、 が低下し、“離脱症状”という様々症状が出てきてしまう訳です。離脱症状というのは起きる時期によって異なり、早期離脱症状と後期離脱症状の2つに分けられます。

早期離脱症状は飲酒を止めて数時間すると出現し、手や全身の震え、発汗、不眠、嘔吐、吐き気、血圧の上昇、、集中力の低下、不整脈、イライラ感、幻聴などがみられます。後期離脱症状では飲酒を止めて2~3日で出現し、幻視、自分のいる場所や時間が分からなくなるなどの見当識障害、興奮などのほかに、発熱、震えがみられることもあります。これらの離脱症状はアルコール依存症でよく見られる兆候の一つです。これだけではなく、周囲の人にアルコールを控えるよう促される、飲むと口論になったり手が出ることもある、などもアルコール依存症の兆候です。

まずはこうした症状がないかどうか確認し自覚することが大きな第一歩となります。

2 アルコール依存症の及ぼす危険性

2−1 様々な臓器障害の併発

肝機能障害

アルコールの代謝は90%以上が肝臓で行われており、最もよく見られるのが肝機能障害です。
初期によく見られる典型的なものは「アルコール性脂肪肝」。さらに飲み続けると致死率の高い「アルコール性肝炎」を起こしていることもあります。そしてさらに悪化すると最終段階である「肝硬変」になります。

膵炎

膵炎には、急激に腹痛をおこし、治療をすれば1ヵ月程で良くなる「急性膵炎」と、症状はそれほど激しくありませんが痛みや糖尿病・消化吸収障害どの症状を伴い、何年間か慢性的に持続する「慢性膵炎」があります。「急性膵炎」は様々な原因により膵液が外に漏れ出て、膵臓やその周囲に激しい炎症を起こすことがあります。 みぞおちから背中にかけて激しい痛みが続きます。「慢性膵炎」は、「急性膵炎」に比べ、症状は穏やかですかが、炎症が何年も持続し 膵臓が段々と硬く萎縮して膵機能が低下していきます。膵炎の恐ろしいところは更に同時に、例外なく糖尿病が発症することです。 糖尿病により腎機能が徐々に低下していき、腎不全に至ることもあるのです。悪化すると人工透析などを行う必要が出てくるため、健常人の生活からどんどん離れていくことになり、精神的な苦痛も増加していきます。

アルコールは発癌リスクを高め、通常の人よりも何倍も癌になりやすくします。
特に口腔癌、咽頭癌、食道癌。肝臓癌、大腸癌などが飲酒に関連した癌として挙げられます。

急性アルコール中毒

若年者・女性・高齢者などでリスクが高く、死に至る可能性があるのです。

急性アルコール中毒は飲酒により脳の中枢機能が低下することにより意識レベルも低下し、呼吸・循環機能が抑制されてしまいます。

嘔吐、呼吸困難などの症状が見られます。最近では特に大学生や新社会人ではその場の雰囲気に飲まれたりして、一気飲みをして過度のアルコール摂取により死亡に至るケースが毎年発生しています。

周囲に急性アルコール中毒が疑われた場合、適切な処置や対応法を取ることが必要不可欠です。死亡例で多いのは吐物が喉に詰まることによる窒息死。意識が低下しているためうまく吐き出せないことがあります。

それを防ぐためにも

  • 1人にせず脈など意識があるかどうか確認する
  • 体を横向きに寝かせる
  • 水分をとるのが可能であれば摂取し、血中のアルコール濃度を下げる
  • ベルトなど体を締め付けているものをとる
  • 体温が低下するので毛布やコートで温める

以上のことに気をつけながら介護しましょう。悪化する様子が見られれば救急車を呼ぶという判断を素早くすることが重要です。

こうした多くの病気の早期発見のためにも、アルコールが好きでよく飲むという人は、アルコール依存症とは関係なく、定期的に病院に行き健康診断などの検査を受けることが大切です。 離脱症状だけでなく、臓器障害を併発している場合の治療では離脱症状への対応と、臓器障害の治療の両方を並行して進める必要があります。

2−2 仕事・私生活に支障をきたす

アルコール依存症という疾患は他の病気とは大きく異なる点があります。

それは患者の身体だけでなく、仕事、家庭など周囲の人への悪影響をもたらすこと。人は皆少なくても誰かしらと関わりを持ちながら生きています。自分のことなんだから関係ない、というわけにはいかないんです。

例えば、家族では経済的な問題、家族間での喧嘩にも発展し、別居や離婚など深刻な問題に直面することもあります。本人は自覚していなくても家族との不仲の原因が  “アルコール” だったりもするんです。こうして毎日一緒にいる家族に多大なる負担や心配をかけることになり、負のルーティンができてしまうのです。

重症化すれば会社で職場の上司や同僚に、仕事上のトラブルで迷惑をかけたりと、気付いたら自分では思いもしないようなことになってしまうことも。さらには飲酒運転などによる重大事故の発生などにつながる恐れもあります。

しかし患者さんはこのように問題が起きても、家族や周囲の人の注意や説得を聞こうとしません。自分が病気であるという自覚はないんですね。仮に問題が起きても自分に都合よく考えたり、自分が原因だと認識していないため周囲の人との関係も悪化していきます。また、自分のことをとがめる周囲に反発を感じ、依存症の悪影響を否認するようになったり、自分では飲酒の問題にうすうす気づいていながらも周囲との距離をとるようになり、誰に何を言われることなくズブズブとアルコールの沼にハマって行ってしまうのです。

3 アルコール依存症の治療法

周りの目を気にしてしまったり、大事にしたくなくて中々病院に行けなかったり、他人に相談できなかったりすることも多いと思います。しかし自分たちだけで治そうとはせずに、アルコール依存症に対して専門的な知識と十分な経験を持つ医師のもとでの治療を行うことをお勧めします。自分自身で患者さんに「アルコール依存症である」という認識をさせることから始めていくので、専門家の力を借りた方が安心して治療に専念することができます。また自助グループなどで回復のモデルを実際に見ることで自分のことを客観的に見ることが出来る様になっていきます。まず病気であるという認識をすることも大事な治療の1つです。

今までは最終的な治療目標は断酒を継続してお酒に頼らずに通常の生活を送れるようになることでしたが、最近では断酒に導くための減酒を目標とするのも治療の選択肢になりつつあります。

また、軽度のアルコール依存症患者さんの場合、減酒が治療の目標となる場合もあります。ただし、減酒治療は誰にでも当てはまる治療法ではないので、それぞれにあった治療方針を選択するためにも、話を聞いてみるだけでも良いのでまずは専門家に相談してみてください。

多くの場合、治療方法として「入院治療」が選択されています。実際に外来治療を行なっても上手くいかなかったり、入院治療でないと仕事が忙しくて時間が取れない方も多いのです。入院治療は治療に専念できるので効果的かつ安全に取り組むことができます。

それ程重症でなかったり、精神的に安定した状態であれば入院せずに「外来治療」が行われることもあります。家族や周囲の方のサポートの元、自分の力でも生活を改善することが可能な場合には外来治療では通院して服薬や断酒会などに参加しながら治療を行っていきます。

入院治療では一般的に導入期、解毒期、リハビリテーション前期・後期の治療段階を踏んでを行っていきます。実際にどうやって治療が行われていくのか具体的に説明していきます。

導入期:初回面談~断酒開始前

まずは患者さん本人にアルコール依存症が病気であることを認識してもらうここと、専門家の医師やご家族や周囲の方などからのサポートの元、患者さんが治療に意欲を持って取り組んでいくための動機づけが行われます。

解毒期:約3週間

自分が「アルコール依存症という病気なんだ」という認識や治療への積極性・動機付けをさらに強化するとともに、離脱症状やその他の臓器障害、合併精神疾患の診断、治療を行っていきます。およそ3週間ほどで離脱症状が治まり体調が落ち着いてくれば、断酒していくための精神療法を始めていきます。

リハビリテーション前期:約7週間

精神的な面での治療をある程度続けられることができれば心身の健康がある程度回復していきます。そうするとリハビリテーションが開始されます。今度は飲酒に対する考え方や行動を見直すための精神療法を受けたり、断酒会などを通して、創作活動やレクリエーション活動を主体とした集団活動プログラムに参加し、退院後、通常の生活を送れるようにリハビリを行っていきます。

リハビリテーション後期:退院後~一生

一通りのリハビリテーションを終えて退院した後も、定期的に通院や断酒会などの自助グループへの参加は継続していきます。そうしてさまざまなサポート受けつつ断酒を長期的に継続します。また、再発防止のために、6ヵ月~1年ほど薬を服用することもあります。

このように外来治療・入院治療を行っていく訳ですが、どちらを行う上でもポイントとなるのが精神的な部分です。ここで有効な精神療法である認知行動療法・集団精神療法についてお話します。

最近では精神療法として、思考や行動のパターンを見直し、修正する「認知行動療法」が取り入れられるようになってきています。患者さんの認知、つまり考え方と行動を同時に見直す治療法です。「認知行動療法」を行うことによって、これまでの患者さんのお酒に対する考え方、価値観であったり、それらを自身で検討して、お酒に対してアルコールがなくても通常の生活が送れるように徐々に「認知」を変えていきます。「断酒会」と言ったワードを聞いたことがあるのでは無いでしょうか。この断酒会などの自助グループというのは、自分1人で向き合うのではなく、話し合いを通しながら依存症の人たちが集まって “集団で” 互いに断酒継続を助け合う集まりに参加したり、他人を通して患者さんが「自分の病気への認識」をより自覚してもらうことで、断酒の意欲を向上させます。

その中で、患者さんは飲酒を防ぐ方法や断酒を継続する目的などについて考えを深めていくことができるようになっていくのです。お酒がなくてもQOLを上げていけるように、みんなで取り組むことによって疎外感などを感じることなく治療を行うことができます。

4 アルコール依存症患者と家族の向き合い方

アルコール依存症患者本人が病院に行くのを嫌がるといったケースは少なくありません。本人は「自分に飲酒の問題は無い、いつでも辞められる」と言い張ったり、酷いと暴言や暴力を振るうこともあります。

毎日一緒にいる家族は、このような状況にうんざりして諦めないことが重要です。

では解決へと踏み出すには、どうしたらよいのかをお話したいと思います。

まずは正しい知識を得ること。世間で言われていることや、身の上相談のようなアドバイスではなく、依存症について勉強しましょう。

そして自分達だけでなく専門家など外部の力を借りることも重要です。この病気を専門に扱う病院や治療機関に相談するだけでも構いません。今の状態を客観的につかみ、次の一歩を踏み出す手助けになります。そうすることで治療につながるのは勿論、家族の方達は悩んでいるのは自分だけではない、とわかるだけでも精神的に大きな支えになると思います。

本人の飲酒問題は本人に返し、本人が責任を持って自分の飲酒問題に向き合うことが大切だからです。家族が毅然とした態度をとらないと、本人がいつまでも家族に依存して甘えるようになり、治療もうまくいきません。

本人に対しては、飲酒のコントロールができないことを病気ではなく、本人の意志の弱さや性格の問題として説得したり、非難したり、過去の飲酒にまつわる怒りをぶちまけるなど感情的に依存症者を責めるといった行動は避けるようにして下さい。

またうんざりしてしまって放って置いたり、全く触れずにいると、依存症者が問題を自覚できないようにしてしまいます。難しいのは周囲の方が善意で指摘をしたりすると、感情的に依存症の人を非難してしまったり、本人との関係も悪くなり余計現実的な話し合いができなくなります。ご家族は本人のためと思ってこのように行動するわけですが、一時的に奏功する場合もあるのですが、長い目で見ると依存症からの回復を妨げてしまいさらに家族の疲労感も強くなって、家族自身の健康が損なわれてしまいます。

家族だけで頑張ろうとせずに、外部の力を借りることをお勧めします。先ほど話したように、お酒の問題を隠したまま身内で解決しようとしても、かえって問題が大きくなることも少なくありません。行政機関や専門の医療従事者、自助グループなど外部の力を借りることで家族が楽になり、本人の治療意欲も高まります。

また、アルコールを飲み続ける期間が長いほど、健康問題、社会問題が深刻化します。早期発見、早期治療なら、治療効率も上がります。

記事の監修者

佐々木真由先生

佐々木真由先生

医療法人社団福美会ヒロクリニック 心療内科
日本精神神経学会専門医
佐賀大学医学部卒業後、大学病院、総合病院で研鑽をつんだのち、ヒロクリニックにて地域密着の寄り添う医療に取り組んでいる。

経歴

2008年 佐賀大学医学部卒業
2008年 信州大学医学部附属病院
2011年 東京医科歯科大学医学部附属病院
2014年 東京都保健医療公社 豊島病院
2016年 東京都健康長寿医療センター
2018年 千葉柏リハビリテーション病院
2019年〜 ヒロクリニック

資格

日本精神神経学会専門医
日本精神神経学会指導医
精神保健指定医