春になると、日本各地で咲き誇る桜。見るだけで心が和む美しい花ですが、実はその花びらや葉には、髪や肌にうれしい効果がたくさん秘められているのをご存知ですか?本記事では、桜がもつ自然のちからと、私たちの美容や健康へのやさしい影響について、わかりやすくご紹介します。
桜の歴史と文化的背景
「桜(さくら)」と聞いて、春の訪れや花見を思い浮かべる人は多いでしょう。日本で「桜」とは、バラ科サクラ属(学名:Prunus)に属する落葉樹の総称で、特に観賞用として知られるのはヤマザクラ(Prunus serrulata)、ソメイヨシノ(Prunus yedoensis)、カンザン(Prunus lannesiana)といった品種です。これらは花の美しさから広く親しまれており、同時に日本文化に深く根づいた象徴でもあります。

日本では、桜は「はかない命」や「移ろいゆく時間」の象徴とされてきました。これは「無常(むじょう)」という考え方に基づいており、「どんなに美しいものも、いつかは終わる」という人生観です。この感覚は、春に多くの人が楽しむ「花見(はなみ)」という伝統行事の中で体感されます。花見は平安時代から続く風習で、桜の下で食事をしたり語り合ったりしながら、自然の美しさとその一瞬を楽しむ文化です。
桜は鑑賞用だけでなく、実用面でも古くから日本人の生活に役立ってきました。たとえば桜の葉や花びらは、和菓子やお茶などに利用されています。有名なのは「桜餅(さくらもち)」で、もち米とあんこを塩漬けの桜の葉で包んだものです。この桜の葉は、八重咲き(花びらが多い品種)の「五泉(ごせん)さくら」などから取られ、香りづけだけでなく、防腐作用があるとされる抗菌効果も期待されています。
桜はまた、日本文化を海外に伝える象徴でもあります。1912年、日本はアメリカ合衆国に約3,000本の桜の木を贈りました。これは友好の証として贈られたもので、現在もアメリカ・ワシントンD.C.ではその桜が毎春満開となり、世界中から観光客が訪れる人気スポットとなっています。韓国、中国、フランス、インドなどにも桜の名所があり、桜は世界的に愛される存在です。
特に注目されている品種に「関山(せきやま)」という八重咲きの桜があります。これは濃い紅色の花を咲かせる丈夫な品種で、国内外で観賞用・食用の両方に用いられています。新潟県の「五泉さくら」は関山の地域変種で、その葉には健康に役立つ新しい成分が含まれている可能性があるとして、近年研究が進んでいます。

桜の種類について
日本には数多くの桜の種類が存在します。公式に認定されている品種だけでも200種類以上あり、さらに交配によって新たな品種が生まれているため、実際には600種類を超えるという推定もあります。
2014年に森林総合研究所(Forestry and Forest Products Research Institute)が行った研究によれば、ソメイヨシノなどの人気品種は、オオシマザクラ(Prunus speciosa)、ヒガンザクラ(Prunus incisa)、ヤマザクラ(Prunus jamasakura)などの自然交雑種(雑種第一代)であることが明らかになりました。こうした交配は人為的にも行われ、開花の時期、花の形、色などに多様性をもたらしています。

中でも注目されるのは、ヤマザクラ(Prunus serrulata)という東アジア原産の種です。この桜は日本に古くから自生しており、花が美しいだけでなく、薬用や食用にも利用されてきました。特に八重咲きで知られる関山(cv. Sekiyama)は、花や葉が食べられるほか、近年では健康に役立つ可能性のある成分を含んでいることが研究によって示されています。桜餅に使われる葉や、伝統食品への応用もこの品種に由来しています。
桜に含まれる生理活性成分
「生理活性成分(bioactive compounds)」とは、体の働きに影響を与える自然由来の成分のことで、健康や美容に役立つことがあります。桜の葉や花には、こうした成分が豊富に含まれていることが科学的にわかってきました。

まず、「フラボノイド(flavonoids)」と呼ばれる成分があり、具体的にはケルセチングルコシド(quercetin glucoside)やイソケルシトリン(isoquercitrin)などが含まれます。これらは体内の「活性酸素(free radicals)」を取り除く抗酸化作用や、炎症を抑える抗炎症作用があるとされています。
次に、「クマリン(coumarins)」や「クマリングリコシド(coumarin glycosides)」といった香り成分も含まれており、これにはリラックス効果があるほか、がん細胞の増殖を抑える可能性があると研究されています。
また、「フェノール酸(phenolic acids)」の一種であるカフェ酸(caffeic acid)やカフェオイルグルコース(caffeoyl glucose)は、肌の老化を防ぐ「抗糖化作用」や、体内の酸化ストレスを軽減する働きを持っています。

興味深いのは、これらの成分が「どのように抽出されるか」によって、その含有量や種類が変わるという点です。たとえば、五泉さくらの葉を「低温真空抽出(low-temperature vacuum extraction)」という方法で処理した研究では、これまで知られていなかった水に溶ける新成分が発見されました。これらは試験管レベルの研究(in vitro)でがん細胞の増殖を抑える効果を示しており、新しい治療成分としての可能性が注目されています。
他にも、アルコール(エタノール)を使った抽出法では、フラボノイドのほか、アルカロイド(alkaloids:苦味のある天然成分)やテルペノイド(terpenoids:植物の香り成分)といった、多様な生理活性物質が多く検出されました。これらは抗酸化作用、抗炎症作用、抗がん作用、抗菌作用などを持ち、医療・健康分野での応用が期待されています。

桜が髪に与える効果
最近の研究では、桜の花から得られるエキスが髪の健康にも良い影響を与えることがわかってきました。特に注目されているのが、カスミザクラ(Cerasus serrulata)の花から抽出したエキス(CSE:Cerasus serrulata flower extract)です。
マウス(C57BL/6という実験に使われる標準的な系統)を用いた研究では、5%と10%のCSEを使ったグループで、毛の再生が促進され、毛の黒色化(色素の増加)も確認されました。これは、血管内皮増殖因子(VEGF)、β-カテニン、チロシナーゼという3つの重要な分子の働きが高まったことによるものです。

VEGFは、毛根に栄養を届ける血管の発達を助ける因子です。β-カテニンは、髪の成長に関わる細胞シグナル伝達(Wnt/β-カテニン経路)に関係し、チロシナーゼはメラニン色素を作る酵素で、髪の黒さに影響します。
10%のCSEを使ったマウスでは、毛の密度が高まり、毛根がより深く、メラノサイト(色素を作る細胞)の活動も活発になりました。驚くことに、その効果は一般的な薄毛治療薬である2%ミノキシジル(米国FDA承認の成分)よりも強かったのです。
また、CSEは髪の脱毛の原因とされるDHT(ジヒドロテストステロン)や、DHTを作る酵素である5α-リダクターゼの量を減らす効果も示しました。さらに、炎症を引き起こすサイトカインであるIL-6(インターロイキン6)も抑制されました。

安全性の面でも、マウスに2000mg/kgまで投与しても毒性が見られず、安全な成分であることが確認されています。
髪以外への桜の健康効果
桜の成分は髪だけでなく、肌や免疫、さらにはがん予防など、さまざまな健康効果があることが研究で示されています。
まず、五泉さくらの葉から抽出したエキスは、試験管内で複数のがん細胞の成長を抑える効果を示しました。これは、既に抗がん作用が知られているクマリンやベンズアルコールよりも強力で、がん細胞がDNAを複製する時期に働きかけて、細胞を「アポトーシス(計画的な細胞死)」に導いたと考えられています。正常な細胞には影響を与えないため、選択的な効果があるという点も魅力です。

肌への効果も期待されています。糖とタンパク質が結びついてできるAGEs(終末糖化産物)は、肌の弾力を失わせ、シワやたるみの原因になりますが、桜の抽出物にはAGEsの生成を防ぐ「抗糖化作用」があります。ある臨床試験では、8週間の使用でAGEsが7%減少し、偽薬を使ったグループの2倍以上の改善が見られました。同時に肌の水分量が増え、色むらや毛穴の目立ちも改善されました。

さらに、桜のエキスは炎症を抑える働きもあります。マクロファージ(免疫細胞)が出す一酸化窒素の量を減らすことがわかっており、また、界面活性剤(ラウリル硫酸ナトリウム)による肌の炎症も軽減されました。これにより、敏感肌向けのスキンケア製品への活用も期待されています。
抗菌作用もあり、皮膚トラブルの原因となる緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)に対して強い殺菌効果が認められています。抗酸化力の高いカフェ酸やケルセチン誘導体を多く含み、これらは老化を引き起こす活性酸素を無害化します。
さらに、桜の塩漬けに含まれる梅酢成分を抽出した飲料や食品(例:桜茶)は、赤ワインよりも高い抗酸化力を示すことが研究で確認されており、体全体の炎症や酸化ストレスの軽減にも役立つ可能性があります。

一般の人へのまとめとアドバイス
桜は見た目の美しさだけでなく、花や葉に含まれる天然成分が、髪、肌、免疫、がん予防など多方面にわたって私たちの健康に良い影響を与えることが、科学的に裏づけられつつあります。
日常生活の中では、桜由来のヘアケア製品やスキンケアクリーム、お茶などを取り入れることで、自然な形で健康や美容をサポートできます。ただし、商品を選ぶ際には、成分の濃度や抽出方法、安全性の試験結果など、信頼できる情報があるかを確認することが大切です。
また、現在の多くの研究は試験管や動物実験に基づいており、人間への効果を確かめるには今後の臨床試験(ヒトを対象とした検証)が必要です。
それでも、桜を取り入れたライフスタイルは、日本の伝統を生かしながら、リスクが少なく、自然な形で健康と美容を育む方法として、大いに注目に値します。

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