年齢とともに増える白髪。見た目の印象に大きく関わるだけに、多くの人が気になっています。そんな中、野菜などに含まれる自然由来の成分「ルテオリン」が、白髪の進行を防ぐ可能性があることがわかってきました。この記事では、最新の研究に基づき、ルテオリンがどのように髪に働きかけるのかをわかりやすく解説します。
白髪とルテオリン:背景、要点、結論
白髪がもたらす影響と治療ニーズ
白髪は加齢とともに生じる自然な変化であり、見た目の若々しさや活力の印象に大きな影響を与えるため、多くの人が気にかける現象です。現在、市販されている白髪対策の多くは、科学的根拠が乏しく、長期的な効果が実証されていないものが多いのが現状です。白髪は進行が遅いため、人間を対象にした臨床研究は困難です。
この課題に対処するため、研究者たちは白髪が短期間で進行するよう遺伝的に設計されたマウスを開発しました。その代表が、EDNRB(+/−);RETマウスです。これはエンドセリン受容体B遺伝子(EDNRB)とRETがん遺伝子の変異を組み合わせたマウスで、人間に類似した白髪の進行を効率よく再現できるモデルです。

白髪の原因:幹細胞老化とシグナル異常
毛は一定の周期で生え変わっており、このサイクルを支えているのが、毛の根元に存在する2種類の幹細胞です。一つは、毛そのものの構造(主にケラチン)を作り出すケラチノサイト幹細胞(KSCs)、もう一つは毛に色を与える色素細胞(メラノサイト)のもとになるメラノサイト幹細胞(MSCs)です。

年齢を重ねると、まずKSCsが老化し始め、細胞同士のコミュニケーションに使われる「エンドセリン」という分子の産生量が減少します。このエンドセリンは、MSCsに対して「生き続けて働いてほしい」という信号を送る役割を担っていますが、MSCs側でもその信号を受け取るための装置である受容体(EDNRB)の数が、加齢とともに減ってしまいます。
つまり、KSCsからのエンドセリンが減り、MSCsもそれを受け取れなくなることで、色素細胞が維持されなくなり、結果として毛が白くなっていくのです。
このエンドセリンとEDNRBによる信号のやり取り(シグナル伝達)は、マウスだけでなく人間でも共通する仕組みであることがわかっており、白髪の治療や予防の新たな標的として注目されています。
ルテオリン:自然由来の白髪抑制候補

ルテオリンはフラボノイドの一種で、抗酸化作用や抗炎症作用、さらに老化の抑制効果があることで知られています。過去には皮膚や細胞に対する有益な作用が報告されていましたが、白髪への直接的な影響については十分に検討されていませんでした。
今回の研究では、ルテオリンのほか、構造が類似するヘスペレチンとジオスメチンという2つのフラボノイドも対象に含め、白髪進行への影響を検証しました。
主な発見と結論
・ルテオリンの外用はKSCsの老化を抑え、エンドセリンとEDNRBの発現を維持し、MSCsの減少を防いだ
・経口投与でも同様の効果が見られたが、外用ほど強くはなかった
・他のフラボノイド(ヘスペレチン、ジオスメチン)には明確な白髪抑制効果がなかった
・ヒト細胞においてもp16INK4aの減少とエンドセリン-1の増加が確認され、ヒトへの応用可能性が示唆された
・酸化ストレス誘導による白髪も、ルテオリンの抗酸化作用により抑えられた
これらの結果から、ルテオリンは白髪の進行を多面的に抑制する有望な成分であると考えられます。今後は、人間に対する安全性や適切な用量、長期的影響についての研究が求められます。
詳しく知りたいです:方法・結果・解釈
EDNRB(+/−);RETマウスを用いた検証

実験モデルと処置
使用したモデルはEDNRB(+/−);RETマウスで、白髪進行の観察が短期間で可能です。以下のような方法で抗酸化物質を投与しました。
・外用投与:ルテオリン、ヘスペレチン、ジオスメチンを1%濃度(70%エタノールに溶解)にして、マウスの背部に16週間毎日塗布
・経口投与:ルテオリンを体重1gあたり0.5mgの量で、16週間連日投与
毛の色や毛周期の変化は、剃毛や刈毛を行いながら観察されました。
分析方法
・免疫組織化学によってp16INK4aやエンドセリンの発現を定量化
・EDNRBの発現とDct陽性MSCsの数をカウント
・毛色の変化を目視評価
・qPCRやレーザーキャプチャーマイクロダイセクションを用いて、遺伝子発現の詳細を解析
主な結果と解釈
外用ルテオリン
・毛周期には影響しなかったが、KSCs領域におけるp16INK4a陽性細胞が有意に減少し、幹細胞の老化が抑制された
・KSCs内のエンドセリン発現が維持され、MSCsにおけるEDNRB発現も保たれていた
・Dct陽性のMSCsが増加し、毛の色素が維持された
・未処置群と比較して、白髪の割合が明らかに減少した
経口ルテオリン
・外用よりやや効果は弱かったが、同様の傾向が認められた
・p16INK4aの発現減少、エンドセリンとEDNRBの維持、MSCsの増加など、白髪抑制に関連する複数の要素が改善された
他のフラボノイドとの比較
・ヘスペレチンとジオスメチンには白髪の進行を防ぐ明確な効果は認められず、MSCsの維持にも影響がなかった
・フラボノイドであっても、ケラチンとの相互作用の違いにより効果が左右される可能性がある
ヒト細胞での確認
・HaCaT細胞を用いたin vitro実験では、ルテオリンによりp16INK4aの発現が減少
・エンドセリン-1の発現が増加し、マウスで重要とされるシグナル伝達の活性化が示唆された
・ただし、試験管内の結果であるため、実際のヒト毛包への応用にはさらなる検証が必要
酸化ストレス誘導試験
・野生型マウスに酸化ストレス誘導物質(t-BOOH)を与えると白髪が生じた
・同時にルテオリンを与えた群では、白髪の進行が有意に抑制された
・ルテオリンは、酸化ストレスによる幹細胞機能低下からの保護作用を持つと考えられる
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引用文献
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