「selfish DNA(利己的DNA)」とは、生物の遺伝子が本来の生存や繁殖に直接関わることなく、自己複製や拡散のみを目的とするように振る舞うDNA配列を指す概念です。この概念はリチャード・ドーキンスが「利己的な遺伝子」という考え方を提唱したことから広まりました。利己的DNAは、遺伝子がただ「自己保存」や「自己複製」を目指す存在として振る舞う一面があるという視点を示しています。
利己的DNAの特徴
- 自己複製
利己的DNAは自らの複製を繰り返すことでゲノム内に増加します。これらのDNA配列は特定の機能を果たすことなく、時に宿主の生物に害を与えることもあります。 - トランスポゾン(ジャンピング遺伝子)
トランスポゾンは利己的DNAの代表的な例です。これらの遺伝子配列はゲノム上で別の場所に移動する性質を持ち、自己複製によってゲノムの異なる場所に挿入され、ゲノム内に拡散します。トランスポゾンが増えると、正常な遺伝子の働きを妨げたり、突然変異を引き起こしたりすることがあります。 - サテライトDNA
利己的DNAの一種として、ゲノム内に多量に存在し、繰り返し配列をもつサテライトDNAも挙げられます。このDNAは生物の生存や繁殖に直接関与しないものが多く、ゲノムの中で「ただ存在する」DNAです。
利己的DNAの影響
利己的DNAは一般的には生物に有益な影響を与えませんが、時には進化の過程で重要な役割を果たす場合もあります。利己的DNAの複製活動や移動により、新たな遺伝的変異が生まれ、結果的に進化を促進することもあります。また、利己的DNAが宿主生物のゲノムの構造や調節に影響を与えることもあり、長い目で見ると進化に寄与する可能性もあります。
「利己的」な理由
利己的DNAは、他の遺伝子や生物の利益を考慮せずに、自己の複製や生存のみを追求するように見えるため「利己的」と呼ばれています。これは、個体レベルではなく遺伝子レベルでの「利己的」な行動と考えられており、ゲノム内で自らの存在を維持し続けるために進化してきた一面を示しています。