身近なおしゃれとなったピアス。昨今では唇やおヘソなど、耳たぶ以外の部位にピアスを開ける方も増えてきました。しかしどんなに高価なピアスでも人体にとっては異物となります。この記事では肉芽や腫れなどピアスに関する皮膚トラブルを医師が解説します。
目次
ピアスホールと皮膚トラブル
ピアスが身近なファッションアイテムとなった一方、ピアスホールといわれるピアスを開けた部位に皮膚トラブルを生じる方が増えています。軽微な皮膚疾患であれば、自然治癒や市販の軟膏で改善するケースもあるでしょう。しかし、痛みや痒みを放置することで感染症を引き起こすことも少なくありません。
ピアッシングは医療行為
ピアスホールを開ける行為はピアッシングと呼ばれ、これは医療行為となります。海外では美容サロンなどで医療資格をもたない施術者により、ピアッシングが一般的に行われています。しかし国内においてピアッシングをすることができるのは、医師もしくは医師管理下の看護師のみとなります。
オンラインショッピングで安価に購入可能な、ピアスガン・ピアッサー(ピアスホールを開ける専用の器具)により、自身でピアスホールを開けるケースも見られます。しかし、セルフピアッシングは最もトラブルが多く、中にはピアッサーのトラブルにより、耳たぶから器具が外れなくなってしまい病院に駆け込むケースも。
また、セルフピアッシングの際に消毒を行わなかったことが原因で、細菌感染や炎症を引き起こすことも少なくありません。ピアッシングを希望する場合は、必ず皮膚科や美容クリニックへ相談しましょう。
ファーストピアスとピアスホールの安定時期
ファーストピアスとはピアッシングにより、ピアスホールを開け、その穴が安定するまで外さずにつけているピアスのことです。
ピアスホールは人体にとっては「傷」となります。ファーストピアスを外してしまうと自然治癒により穴が塞がるため、ピアスホールの貫通部位が安定するまでファーストピアスは外すことなく過ごします。ただし、強い痛みや痒みなどが生じた場合は、すみやかにピアスを外し診察を受けましょう。
なお、ファーストピアスはピアスホールを安定させるため、宝飾ピアスとくらべ、ポスト(皮膚に貫通する部分)が長く太いものとなります。素材は金属アレルギーリスクの低い、サージカルステンレスやチタン、24金メッキが多く用いられています。
ファーストピアスはいつまでつける?
ピアスホールが安定する時期は、ピアッシングを行なった部位によって異なります。耳たぶの場合、通常1〜3ヶ月ほどとされますが、軟骨などへのピアッシングはピアスホール安定まで1年ほどかかるケースも少なくありません。その間、皮膚に異常が生じない限りファーストピアスを外さないようにしましょう。
ピアスホールの安定時期には個人差があります。一般的な目安としてピアスホールから出血や体液が出ない、ピアスを外した際に痛みが生じないことが挙げられます。
なお、ピアスホールが安定する途中に炎症や化膿が生じると、安定までの期間が延びることがあります。ピアッシングを行った際は、ピアスホールの消毒などセルフケアが大切です。
ピアスホールが痛い・痒い・赤いは危険信号
ピアッシングを行なった後、数日間はピアスホール部位に軽微な痛みが生じます。しかし、数週間たっても痛みが続いたり、痒みや赤み(炎症)がある場合は、すぐに皮膚科で診察を受けましょう。
ピアスホールに現れた赤いしこりの正体とは
ピアストラブルの中で多く見られる、赤いしこり。医療用語では肉芽(にくげ)といわれます。多くの場合、ピアッシングからしばらく経った後に生じるとされ、触るとコリコリと硬く、症状によっては痛みや膿が生じます。
肉芽は皮膚に傷や炎症が生じ、組織の欠損部位が治癒する過程で作られる結合組織です。線維化、瘢痕化することでいわゆる自然治癒が行われますが、皮膚がピアスを異物とみなすことにより過剰に組織が生成され、肉芽となります。
肉芽を放置することで、少しずつ大きくなることも少なくありません。肉芽が進行するとピアスホール部位の皮膚を切除手術する必要があるため、赤いしこりが生じた際はピアスを外し、皮膚科に相談しましょう。
ピアストラブルによる肥厚性瘢痕やケロイド
体質によっては肥厚性瘢痕やケロイドによって、皮膚組織の盛り上がりを形成することがあります。なお肥厚性瘢痕とケロイドは混同されることも少なくありませんが、それぞれ異なる疾患です。
肥厚性瘢痕
創傷の治癒が遅れることで生じる皮膚の盛り上がり。盛り上がりは元の傷の範囲を越えることはないが赤み・痛み・痒みが生じる。
ケロイド
肥厚性瘢痕と似た皮膚の盛り上がりが生じるが、盛り上がりは元の傷の範囲を越える。赤み・痛み・痒みは肥厚性瘢痕より強いとされる。
肥厚性瘢痕やケロイドを生じた際は、傷跡治療を行っている皮膚科、もしくは形成外科で診察を受けましょう。
介軟骨膜炎~ピアスホールの感染症による耳の壊死
ピアスホールに細菌が感染し、耳介軟骨膜炎(じかいなんこつまくえん)を起こすことも少なくありません。耳介軟骨膜炎とは耳全体が赤く腫れ、激しい痛み・発熱をともなう感染症のことです。
耳介軟骨膜炎は、早期に適切な治療を行うことで軽快します。しかし放置すると悪化を招き、耳の形を作る軟骨が壊死・萎縮し、耳の形がカリフラワー状に変形することもあります。
萎縮変形を起こした耳は、肋軟骨移植による再建などの外科手術が必要とされます。これらのことから、ピアスホールが「痛い・痒い・赤い」といった症状が生じた際は、たとえ軽微であっても必ず医師の診察を受けることが大切です。
いつまでも安定しないピアスホールは金属アレルギーの可能性も
ピアッシングを行った後、長期間ピアスホールが安定しない場合、金属アレルギーの可能性も考えられます。金属アレルギーにより皮膚に痒みや、ただれが引き起こされることも少なくありません。またピアスによる金属アレルギーが、全身に生じるケースもあるため、注意が必要です。
金属アレルギー体質であっても、どうしてもピアスをつけたいのであれば、金属アレルギー検査を行ないアレルギー源となる金属を避けましょう。また、アレルギーリスクの少ないサージカルステンレスやチタンなど、素材選びも重要です。
危険な肉芽のセルフケア
インターネットにはピアスホールに生じた肉芽に対し、さまざまなセルフケア(民間療法)方法が紹介されています。クエン酸液に浸したガーゼを患部に当てる、またはホットソークと呼ばれ天然塩をぬるま湯で溶き患部に浸す行為などが挙げられていますが、いずれも効果は証明されていません。
また、カッターや針を使って肉芽を潰す行為はとても危険です。感染症による皮膚の壊死など重篤なトラブルを招くため、ピアスホールに肉芽などの異変を認められた場合は、すみやかに医師の診察を受けましょう。
ピアッシングは必ず皮膚科で
ピアスの穴を開ける(ピアッシング)は医療行為です。小さなピアスホールから皮膚や軟骨の壊死が生じるケースも多く見られ、悪化することで切除手術が必要となる可能性も考えられます。安全にピアスによるおしゃれを楽しむためにも、ピアッシングは必ず皮膚科や美容クリニックで行ないましょう。
ヒロクリニック形成外科・皮膚科では、耳たぶへのピアッシングはもちろん、おヘソなどのボディピアスも麻酔を使用することで、痛みが少なく安全性の高いピアッシングを行なっております。万が一、感染症などのトラブルや、肥厚性瘢痕・ケロイドを生じた場合も適切な治療が可能です。ピアスについてのご相談はヒロクリニックまでお問い合わせください。
【参考文献】
- 日本皮膚病理組織学会 – 皮膚病理組織学用語
- 皮膚科Q&A – 金属、歯科材料による接触皮膚炎(かぶれ)はどのようなものですか?
- 日本形成外科学会 – ケロイド・肥厚性瘢痕
- 多根総合病院 – ピアス留置感染による耳介萎縮に対し耳介再建を行った 1 例