なんで傷あとがふくらむの?ケロイドと肥厚性瘢痕のちがいをやさしく解説

ばんそうこう
この記事の概要
小さなけがや虫さされのあとが、いつのまにか固くふくらんで目立つようになった…そんな経験はありませんか?それは「ケロイド」や「肥厚性瘢痕」かもしれません。この2つはよく似ているけれど、原因や治り方がちがいます。この記事では、それぞれの特徴やできやすい場所、体質との関係、予防法や治療法まで、わかりやすく紹介します。自分の肌について知って、もっとやさしく向き合ってみませんか?

ケロイドと肥厚性瘢痕の理解

ケロイド(Keloid)と肥厚性瘢痕(Hypertrophic scar)は、いずれも創傷治癒(wound healing)の異常によって生じる皮膚の線維増殖性疾患(fibroproliferative disorders)です。これらはともに過剰なコラーゲン(collagen)産生を伴い、痛みやかゆみなどの不快な症状を引き起こすことがあります。ただし、臨床的な見た目、組織学的特徴、治療反応性には大きな違いがあります。

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ケロイドの定義と特徴

ケロイドは、創傷が治癒する過程で生じる異常な皮膚の増殖であり、本来の傷の範囲を超えて硬く隆起した組織が拡大していくのが特徴です。自然に退縮することはほとんどなく、時間の経過とともに徐々に増大する傾向があります。見た目は赤みや色素沈着(hyperpigmentation)を伴うことがあり、結節状(nodular)または斑状(plaque-like)に広がることもあります。この異常な増殖は、炎症期(inflammation)、線維芽細胞の増殖期(fibroblast proliferation phase)、成熟期(maturation phase)という創傷治癒の三相のうち、特に増殖期が過剰かつ持続的になることによって引き起こされます。

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疫学とリスク要因

ケロイドは、アフリカ系、アジア系、ヒスパニック系の人々など、皮膚の色が濃い集団でより高い発症率を示し、発症率は4.5%〜16%と報告されています。思春期や妊娠中などホルモン変動の大きい時期にも発症しやすく、家族歴がある場合は発症リスクが高まります。まれに、Rubinstein-Taybi症候群やGoeminne症候群などの遺伝性疾患と関連することもあります。また、機械的刺激や炎症、血圧の上昇(高血圧)もリスク因子です。

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臨床的特徴と経過

ケロイドは、皮膚の外傷後1〜12ヶ月以内に生じることが多いですが、ごく軽微な傷(たとえば虫刺されやニキビ)でも発症することがあります。好発部位は、三角筋部(deltoid area)、胸部中央(presternal chest)、背上部(upper back)、および耳たぶ(earlobes)です。86%の患者がかゆみ、46%が痛みを訴えるとされており、その他にも圧痛や焼けるような感覚を伴うことがあります。見た目の問題だけでなく、こうした症状が日常生活に大きく影響することも少なくありません。

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肥厚性瘢痕との違い

肥厚性瘢痕は、傷の範囲内にとどまる盛り上がった赤い瘢痕で、時間の経過とともに自然に退色し、平坦になって柔らかくなる傾向があります。ケロイドと異なり、周囲の正常な皮膚には拡大せず、治療にも比較的よく反応します。組織学的には、繊維芽細胞の増加や平行に並ぶコラーゲン繊維が特徴で、ケロイドに特有の「ケロイドコラーゲン(keloidal collagen)」は存在しません。

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組織学的特徴と診断のポイント

ケロイドの組織像

ケロイドは顕微鏡下で特有の太く硝子様のコラーゲン束(keloidal collagen)を示します。これは約55%の症例で確認されます。その他の特徴としては、乳頭真皮下の「舌状の前進端(tongue-like advancing edge)」、上部網状真皮における水平線維帯、深部真皮の筋膜様帯(fascia-like band)などがあり、これらの所見は診断に有用です。

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細胞・分子レベルの異常

ケロイドでは、線維芽細胞の異常増殖、アポトーシス(apoptosis:細胞の自然死)の抑制、コラーゲンやサイトカインの過剰産生が見られます。ケロイド組織では、コラーゲン合成が正常皮膚の20倍、肥厚性瘢痕の3倍に達することが報告されています。形質転換増殖因子β(TGF-β)や血小板由来成長因子(PDGF)の過剰発現がこうした線維化の亢進に関与しています。

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他疾患との鑑別

通常は視診で診断可能ですが、外観が典型的でない場合には生検(biopsy)を行います。鑑別診断には、肥厚性瘢痕のほか、皮膚線維腫(dermatofibroma)、皮膚線維肉腫隆起型(DFSP: dermatofibrosarcoma protuberans)、強皮症(scleroderma)、ロボミコーシス(lobomycosis)などが含まれます。ロボミコーシスは、Lacazia loboiという真菌による感染症で、南米の土壌やイルカとの接触歴がある場合にみられることがあります。

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発症の背景と関連因子

遺伝的・エピジェネティック要因

ケロイドには明確な遺伝的素因があり、いくつかのゲノムワイド関連解析(GWAS)によって、特定の一塩基多型(SNP: single nucleotide polymorphism)が発見されています。日本での研究では、rs8032158など4つのSNPがケロイド形成および重症度と関連していることが示されました。また、18q21.1に存在するSMAD2、SMAD4、SMAD7といったTGF-β経路に関わる遺伝子が注目されています。

エピジェネティック変化(epigenetic modifications)としては、DNAメチル化(DNA methylation)や非コードRNA(non-coding RNA)の発現異常が報告されています。たとえば、miR-199a-5pはケロイドで低下し、細胞増殖抑制能が低下する一方、miR-21は増加してアポトーシスを抑制し、線維化を促進します。長鎖非コードRNA(lncRNA)も関与し、CACNA1G-AS1やlncRNA-ATBはTGF-β2の発現制御に関与します。

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機械的張力と皮膚緊張

ケロイドの発症部位は、日常的に引っ張られる部位(胸部、肩、顎、耳など)に集中する傾向があります。これは、皮膚の緊張(mechanical tension)が創傷治癒の過程に影響を与え、線維芽細胞の活性や炎症を促進するためです。反対に、皮膚の動きが少ない頭皮や前脛骨部などでは、ケロイドの発症はまれです。

緊張の方向に応じて、胸部では「カニのはさみ状(crab’s claw)」、肩では「ダンベル状(dumbbell)」など、特有の形態を取ることもあります。

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治療法の選択肢

ケロイドの治療は再発率が高く、単独療法での完治は難しいため、複数の治療法を組み合わせた個別化戦略が基本です。

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第一選択治療

副腎皮質ステロイド(Corticosteroids)

トリアムシノロン(triamcinolone)などのステロイドを病変内に注射する治療が第一選択とされ、4〜6週間間隔で行います。外用薬やステロイド含有テープ(例:ドレニゾンテープ)も症状緩和に有効です。

凍結療法(Cryotherapy)

液体窒素などを用いて、ケロイド組織を凍結・融解させることで細胞壊死を誘導します。色素沈着のリスクがあるため、色の濃い肌では注意が必要です。

シリコンシート・圧迫療法(Compression therapy)

シリコンゲルシートなどで一定の圧力(15〜45 mmHg)をかけ、1日23時間以上、最低6ヶ月使用することで再発予防に効果があります。

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手術と高度治療

切除術と放射線療法

美容的または機能的な理由で手術が選択されることがあります。ただし、切除単独では45〜100%の再発率があるため、術後にステロイド注射や放射線治療(術後24〜28時間以内)を併用することが推奨されます。18歳未満や感受性の高い部位では放射線の使用には慎重を要します。

レーザー治療(Laser therapy)

585nmパルスダイレーザーや1065nm Nd:YAGレーザーは、複数回の照射でケロイドの厚みや赤みを軽減する効果が報告されています。

その他の薬物療法

ボツリヌストキシン(botulinum toxin)、ブレオマイシン(bleomycin)、5-フルオロウラシル(5-fluorouracil)、イミキモド(imiquimod)などが使用されることがあります。これらは単独または併用で行われます。

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手術前後のケアと注意点

術前・術後の注意事項

高血圧治療薬や抗凝固薬を服用中の方、麻酔歴に問題がある方は事前に申告が必要です。術後には抗生物質3日分と鎮痛薬が処方されます。

創部管理

術翌日に再診が行われ、問題がなければ入浴・洗浄が可能になります。以降は毎日入浴後に創部を消毒し、処方された軟膏を塗布してガーゼで保護します。

抜糸後のケア

傷跡を平らに整えるため、約1ヶ月間は茶色の医療用テープで保護し、必要に応じて赤み抑制の軟膏を塗布します。

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最新研究と今後の展望

実験モデルとパラダイムシフト

ケロイドはヒト特有の疾患であるため、動物モデルでは完全な再現が困難です。近年では、ケラチノサイト(keratinocytes)と線維芽細胞を共培養する3次元モデル(3D organotypic co-culture)が注目され、より実際の病態に近い再現が可能となっています。

ケロイドの再定義

国際疾病分類第11版(ICD-11)では、ケロイドが線維腫症(fibromatosis)に分類され、単なる美容的問題ではなく、腫瘍様の線維増殖疾患と見なされるようになりました。この視点の転換は、診断と治療の精度を高めるうえで重要です。

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結論

ケロイドは単なる皮膚の瘢痕ではなく、複雑な線維性疾患であり、遺伝、環境、ホルモン、機械的刺激といった多様な因子が関与しています。現行の治療法は多く存在するものの、完治は難しく、再発の可能性も高いため、予防と早期対応が極めて重要です。すべての医療従事者は、ケロイドに対する深い理解と慎重な対応が求められます。今後は、機械的刺激やエピジェネティクスを標的とした新たな治療法の開発が期待されており、創傷治癒の理解がさらなる飛躍を遂げると考えられています。

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引用文献

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