まぶたが重たいのは病気?『眼瞼下垂(がんけんかすい)』ってなに?見た目と健康に関わる大切な話

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この記事の概要
鏡を見て「なんだか片方のまぶたが重たい…」と思ったことはありませんか?もしかしたら、それ「眼瞼下垂(がんけんかすい)」かもしれません。これは、まぶたがしっかり開かなくなる症状で、生まれつきの場合もあれば、大人になってから起こることも。視界が狭くなるだけでなく、見た目や気分にも影響するため、放っておくと日常生活に困ることもあるんです。この記事では、眼瞼下垂の原因、症状、治療法までをやさしく解説します。「なんだか左右差が気になる」「よく目が疲れる」そんなあなたにも知ってほしい、大事なお話です。

眼瞼下垂(がんけんかすい:PtosisまたはBlepharoptosis)の概要

眼瞼下垂とは、上まぶたが異常に垂れ下がる状態を指し、まぶたを持ち上げる筋肉や神経の機能低下が原因となります。この状態は先天的に(生まれつき)発症することもあれば、後天的に(加齢や外傷などにより)発症することもあります。眼瞼下垂は見た目の問題だけでなく、上方の視野を遮ったり、網膜に届く光の量を減らしたりすることで視機能に大きな影響を及ぼします。さらに、外見の変化により心理的な負担を感じる方も多く、社会生活に支障を来すことがあります。

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症状と日常生活への影響

眼瞼下垂の代表的な症状としては、視野が狭くなることによる読書や運転の支障、まぶたの重さによる開眼困難、まぶたを持ち上げようと額(前頭筋:frontalis muscle)を無意識に使うことで額に深いしわができることなどが挙げられます。慢性的な眼精疲労や頭痛、首・肩のこりといった二次的な症状が出ることもあります。

小児期に眼瞼下垂があると、まぶたが視軸(視線の中心)を遮ることで視力の正常な発達が妨げられ、「弱視(amblyopia)」と呼ばれる視力障害を引き起こすこともあります。このような視覚の発達障害は、早期に適切な診断と治療を受けることで予防が可能です。

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まぶたを持ち上げる筋肉とその解剖学的構造

眼瞼(上まぶた)を持ち上げるためには、主に3つの筋肉が関与しています。

第一に「上眼瞼挙筋(Levator Palpebrae Superioris:LPS)」が最も重要な筋肉で、脳神経の第3神経(動眼神経:oculomotor nerve)によって支配され、蝶形骨(sphenoid bone)から始まり、まぶたの内部にある「瞼板(tarsal plate)」に付着しています。

第二に「ミュラー筋(Müller’s muscle)」という副次的な筋肉があり、自律神経(交感神経)によって制御されています。この筋肉は上眼瞼挙筋の裏側から始まり、瞼板の上端に付着し、まぶたを1〜2ミリ程度追加で引き上げる働きをします。ホルネル症候群(Horner’s syndrome)などの神経疾患では、この筋肉の機能が低下し軽度の下垂が見られます。

第三に「前頭筋(Frontalis muscle)」は額の筋肉で、第7脳神経(顔面神経:facial nerve)に支配されており、まぶたを直接持ち上げる筋肉ではないものの、眉を持ち上げることで間接的に眼瞼下垂を補おうとします。

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眼瞼下垂の分類

眼瞼下垂は、大きく「先天性(congenital)」と「後天性(acquired)」に分類され、原因によりさらに詳細に分類されます。

先天性眼瞼下垂(Congenital Ptosis)

出生時あるいは生後1年以内に発症するものを指します。最も一般的なのは筋原性(myogenic)で、上眼瞼挙筋の発達不全や神経支配の異常によって生じます。

このタイプは、単独で発症する場合(非症候性:nonsyndromic)もあれば、以下のような症候群の一部として発症することもあります。

マーカス・ガン症候群(Marcus Gunn jaw-winking syndrome)では、顎を動かすとまぶたが連動して動く異常な神経の接続が見られます。デュアン症候群(Duane Retraction Syndrome)では眼球の動きに制限があり、眼球の引き込みやまぶたの狭まりを伴います。

ブレファロフィモーシス・眼瞼下垂・内反性蒙古ひだ症候群(Blepharophimosis-Ptosis-Epicanthus Inversus Syndrome:BPES)は、まぶたの形態異常に加え、I型では女性において早発卵巣不全(早期閉経)を伴うことがあります。

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後天性眼瞼下垂(Acquired Ptosis)

加齢や外傷、神経疾患などが原因で成人期以降に発症するタイプです。

中でも最も頻度が高いのが腱膜性下垂(Aponeurotic Ptosis)で、これは上眼瞼挙筋の腱膜(aponeurosis)が加齢や長期間のコンタクトレンズ装用、眼の手術などによって伸びたり外れたりすることで起こります。

そのほかに、神経の障害(Neurogenic Ptosis:例:動眼神経麻痺やホルネル症候群)、筋疾患(Myogenic Ptosis:例:重症筋無力症や筋ジストロフィー)、物理的にまぶたが重くなる機械的下垂(Mechanical Ptosis)、外傷によるもの(Traumatic Ptosis)、そして見かけ上まぶたが垂れているように見える偽性下垂(Pseudoptosis)があります。

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診断と臨床評価

正確な診断のためには、詳しい病歴の聴取と、以下のような身体所見の評価が不可欠です。

まぶたと瞳孔の位置関係を示す「MRD(Marginal Reflex Distance)」、まぶたの開き具合(眼裂高:palpebral fissure height)、上眼瞼挙筋の機能(levator function)の測定などが行われます。

神経筋疾患の評価では、「アイスパックテスト(ice test)」や「エドロホニウムテスト(edrophonium test)」といった疲労性テストが有用です。また、視力、眼球運動、頭の傾き、眉毛の持ち上がりの有無なども機能的影響の指標となります。

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先天性眼瞼下垂の疫学と遺伝的背景

疫学的特徴

小児における眼瞼下垂のうち、約90%が先天性であると報告されています。多くは片眼性(unilateral)で、左眼に好発します。中国の大規模調査では、出生842人に1人(有病率0.18%)の割合で発生しているとされています。

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遺伝的要因と関連遺伝子

非症候性先天性眼瞼下垂(Nonsyndromic Congenital Ptosis:NSCP)では、以下のような遺伝子の関与が報告されています。

ZFHX4(8q21.13)は筋肉と神経の発生に関与する転写因子で、染色体異常や点変異により眼瞼下垂を引き起こすと考えられています。

COL25A1(4q25)は神経と筋の接続(軸索誘導)に関与するコラーゲン遺伝子で、欠損により上眼瞼挙筋の発達遅延をきたします。

症候性先天性眼瞼下垂(Syndromic Congenital Ptosis:SCP)では、以下のような遺伝子異常が関連します。

FOXL2(BPESの原因)、KIF21A・PHOX2A・TUBB3(先天性外眼筋線維化症:CFEOM)、およびミトコンドリア遺伝子(POLG、ANT1など:慢性進行性外眼筋麻痺:CPEO)が知られています。

さらに、18pの欠失やX染色体長腕(Xq)の重複といった染色体異常、またBRPF1(ヒストンアセチル化制御因子)の変異も顔面発生異常に関与することが明らかになっています。

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病理組織学的所見

NSCPの患者から採取された上眼瞼挙筋では、以下の異常が報告されています。

筋繊維が脂肪や線維組織に置き換わっている、核の異常配置(internalized nuclei)、炎症細胞の浸潤、ミトコンドリアの構造異常や細胞外マトリックスの沈着などが観察されており、筋ジストロフィーまたは筋形成不全の所見と解釈されています。

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治療の適応と手術の選択

手術が推奨されるケース

眼瞼下垂の治療には外科的手術が中心となります。以下のような状況では、特に手術が推奨されます。

まぶたが瞳孔を覆って視野を妨げている場合、頭を後ろに傾けるような異常姿勢(顎上げ)で視野を確保している場合、また小児において視力の発達に影響を及ぼす可能性があると判断される場合には、早期の手術が必要です。

ただし、学童期前(3〜5歳)までは、まぶたの筋機能の評価がより正確に行えるようになるため、視力へのリスクがない限り、手術はその時期まで待つことが一般的です。

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眼瞼下垂に対する手術の種類

手術法は、上眼瞼挙筋の機能(levator function)や下垂の程度に応じて選択されます。

重度の下垂で上眼瞼挙筋の機能が著しく低下している場合(4mm未満)には、「フロントスリング術(Frontalis Sling)」が適応されます。この術式では、まぶたと前頭筋を連結させ、額の筋肉を用いてまぶたを持ち上げる仕組みです。使用される材料は、自家組織(大腿部の筋膜:fascia lata)または人工素材(シリコン、ゴアテックスなど)です。

中等度の下垂で挙筋機能が中等度(4〜10mm)の場合は、「上眼瞼挙筋短縮術(Levator Resection)」が行われ、筋肉を切除して短縮し、まぶたの挙上力を強めます。

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腱膜性の下垂で挙筋機能が良好(10mm以上)の場合は、「腱膜前転術(Levator Advancement)」が選択され、ゆるんだ挙筋腱膜を再び瞼板に固定します。

挙筋機能が中等度(3〜5mm)の場合には、「ウィットノール靭帯スリング(Whitnall’s Ligament Sling)」が選択肢となり、上眼瞼挙筋の力をより垂直方向に伝えるよう工夫されます。

軽度の下垂で挙筋機能が良好な場合には、「ファサネラ・サーヴァット法(Fasanella–Servat Procedure)」または「ミュラー筋・結膜切除術(Müller’s Muscle-Conjunctival Resection)」が選ばれます。後者はフェニレフリン点眼試験で良好な反応が得られる症例において適応され、まぶたを2〜3mm程度引き上げる効果が期待されます。

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手術に伴うリスクと合併症

眼瞼下垂手術には以下のような合併症が生じることがあります。

術後にまぶたの挙上が不十分(アンダーコレクション)または過剰(オーバーコレクション)となり、再手術が必要となることがあります。まぶたが完全に閉じない「兎眼(lagophthalmos)」の状態では角膜が乾燥しやすく、露出性角膜炎(exposure keratitis)を引き起こすこともあります。

また、創部の瘢痕やまぶたの輪郭異常、左右差、人工素材に起因する感染や肉芽腫形成といった合併症も報告されています。使用する材料の選択や手術技術が術後の仕上がりに大きく影響するため、術者の経験も重要な要素です。

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ヒロクリニックにおける保険適用の眼瞼下垂手術

対象となる症状とご相談の目安

埼玉県川口市のヒロクリニックでは、眼瞼下垂の手術に健康保険が適用されます。日常生活に支障をきたしている場合、保険診療の対象となる可能性があります。

たとえば、視界が狭くなったり、まぶたが重く開きづらい感覚がある場合、また、まぶたを持ち上げるために額にしわが寄る、眼精疲労や頭痛、肩こりが生じているといった症状があれば、一度ご相談いただくことをおすすめします。

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手術の流れと内容

ヒロクリニックでは、以下のような手術手順が行われます。

まず、ご希望の二重ラインをデザインし、そのラインに沿って皮膚切開を行います。たるんだ皮膚や眼輪筋(まぶたの筋肉)を切除し、上眼瞼挙筋を短縮して固定することで、開瞼機能の改善を図ります。

局所麻酔下で手術が行われるため、術中に左右差の調整も可能であり、結果の精度が高まります。

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術後の経過と自宅でのケア

両眼の手術はおおよそ60〜90分で終了します。術後には腫れや内出血が1〜2週間ほど続くことがありますが、多くは1〜2か月で落ち着きます。

基本的には翌日に通院して創部の状態を確認します(翌日が休診日の場合はその翌日)。問題がなければ、その日から洗顔やシャワーも可能です。術後は入浴後にご自宅での消毒を毎日行っていただきます。

抜糸は術後1週間で行い、メイクはその翌日から再開できます。

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費用について(保険適用時)

ヒロクリニックで両眼の眼瞼下垂手術を行った場合、一般的な挙筋前転法(Levator Advancement)での保険自己負担額は以下のとおりです。

医療費の3割負担の方:およそ43,000円
医療費の1割負担の方:およそ15,000円

※費用は目安であり、個々の症例により多少変動します。

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リスクについて

他の手術と同様に、まぶたに傷跡が残る可能性があります。また、仕上がりに左右差が出ることもありますので、術前の十分な説明と理解が重要です。

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結論

眼瞼下垂は、筋肉、神経、遺伝子、外傷など多くの要因が複雑に関与する症候群であり、その診断と治療には専門的な知識と評価が求められます。特に小児においては、視力の正常な発達を妨げる可能性があるため、早期の診断と適切な介入が非常に重要です。

成人における後天性眼瞼下垂に対しても、原因に応じた適切な治療法が必要です。手術は症状やまぶたの筋肉の機能に応じて選択され、患者のQOL(生活の質)を大きく改善することが可能です。

ヒロクリニックのような施設では、保険診療の対象として高度な専門的評価と術後ケアが提供されており、機能的にも美容的にも満足のいく結果を得られることが期待されます。

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再手術の必要性と調整の重要性

眼瞼下垂手術は、非常に精密な調整を必要とする手術です。まぶたの高さや左右差、眼球運動とのバランスを考慮する必要があるため、術後に再手術が必要になるケースもあります。

再手術の主な原因としては、術後の「アンダーコレクション(undercorrection:まぶたが十分に上がっていない)」や「オーバーコレクション(overcorrection:まぶたが上がり過ぎてしまった)」があります。こうした不均衡は、手術後の数週間から数か月で明らかになることが多く、腫れや組織の回復を待って最適なタイミングで再評価されます。

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また、まぶたの縁の形が不自然になったり、目を閉じたときに隙間が生じたり(兎眼:lagophthalmos)する場合も、術後に修正手術を検討する必要があります。特に高齢者や乾燥眼(ドライアイ:dry eye)の患者では、術後の眼表面の保護にも注意が必要です。

再手術では初回手術よりも組織の癒着や瘢痕(scar)が多くなるため、より高度な技術と慎重なアプローチが求められます。

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非手術的アプローチの限界と補助的手段

眼瞼下垂の本質的な解決には手術が必要ですが、軽度の症例や一時的な症状に対しては、非手術的なアプローチが補助的に行われることもあります。

たとえば、「ミュラー筋機能の評価」の一環として使われるフェニレフリン点眼試験(phenylephrine test)では、交感神経作動薬である点眼薬を用いてミュラー筋を一時的に収縮させ、まぶたの上がり具合を確認します。この試験で効果が確認された患者に対しては、「ミュラー筋結膜切除術(Müller’s muscle-conjunctival resection)」が適応となることもあります。

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また、重症筋無力症(myasthenia gravis)などの神経筋疾患による一過性の下垂に対しては、ステロイドや免疫抑制薬による内科的治療や、メスチノン(ピリドスチグミン:pyridostigmine)などの薬物治療が選択されることがあります。

加齢や疲労による一時的な軽度の眼瞼下垂に対しては、「眼瞼下垂用眼鏡(ptosis crutch)」という装具を使用し、まぶたを機械的に支えることで視野を確保する方法もあります。ただしこれは根本的な治療法ではなく、あくまで対症的な手段にすぎません。

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高齢者における眼瞼下垂とQOL(生活の質)の関係

高齢者では、まぶたのたるみによる「老人性眼瞼下垂(involutional ptosis)」がよく見られます。このタイプは、まぶたの腱膜が徐々にゆるむことで生じ、視野障害や頭痛、首の痛みなどを引き起こします。

手術によってまぶたの機能が改善されると、視界が開けるだけでなく、慢性的な眼精疲労や肩こりも改善する可能性があり、生活の質(QOL:Quality of Life)が大きく向上したという報告が多数あります。

また、顔の印象も大きく変化するため、外見の若返りを実感する患者も少なくありません。美容的な側面と機能的な改善が同時に得られる点は、眼瞼下垂手術の大きな利点です。

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今後の展望:遺伝子研究と先制医療

先天性眼瞼下垂に関しては、近年、次世代シーケンシング(Next-Generation Sequencing:NGS)を用いた遺伝子解析が進展し、多くの関連遺伝子や染色体異常が報告されるようになってきました。

今後は、こうした遺伝情報を活用して、リスクのある家族に対する遺伝カウンセリング(genetic counseling)や、早期診断・予防的介入といった「先制医療(preventive medicine)」の実現が期待されています。

さらに、筋疾患や神経疾患に対しては、遺伝子治療(gene therapy)分子標的治療(molecular targeted therapy)といった先端医療が研究段階に入っており、眼瞼下垂に対する非外科的治療の可能性が広がりつつあります。

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おわりに

眼瞼下垂は、見た目だけの問題ではなく、視覚や身体全体の健康、そして精神的な面にも影響を与える重要な疾患です。正確な診断と個別に最適化された治療方針が求められます。

特に小児では、弱視や視力障害のリスクがあるため、早期の発見と対応が極めて重要です。また成人や高齢者においても、機能面だけでなく美容面の改善を通して、社会的活動や精神的健康にも好影響を及ぼします。

眼瞼下垂に関する最新の医学的知見や手術技術の進歩により、多くの患者が高い満足度で治療を終えています。これからも、より安全で効果的な治療の提供、そして患者ひとりひとりの生活の質の向上を目指した医療の発展が期待されます。

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