やけど(火傷)とは熱湯や火、高温の金属などに触れることで皮膚や粘膜が損傷を起こした状態のことです。これらの熱によるやけどのほか、電気や化学物質によるやけどもあり、いずれも応急処置が非常に重要となります。
目次
やけど(火傷)とは
医療用語で「熱傷」といわれるように、「やけど」とは熱によって皮膚組織や粘膜が傷を負うことです。熱以外にも電気による電撃熱傷や硫酸などの化学物質による化学熱傷などが挙げられます。また紫外線による日焼けも、やけどの一種です。
やけどは熱源温度と、それが皮膚に触れていた時間によって傷の深さが異なります。やけどによる皮膚組織の損傷の深さはおもにⅠ〜Ⅲ(1〜3)段階に分けられ、やけどによる損傷が深く範囲が広いほど重傷とされます。また大人と比べ、身体が小さく皮膚組織の薄い乳幼児の場合、深刻なやけどとなる恐れがあるため注意が必要です。
やけどの深度とそれぞれの症状
●Ⅰ度(1度)
表皮層までの損傷:
軽度のひりつきや赤みが生じる。数日間で痛みは治まる。やけどが跡に残ることは少ない。
●Ⅱ度(2度)
真皮層までの損傷:
真皮浅層までの損傷であれば痛み・ひりつき・水ぶくれとなり、感染がない場合は跡に残らないことも。真皮深層までの損傷であれば治癒まで1ヶ月以上の時間を要し、ケロイド状に跡が残る。
●Ⅲ度(3度)
皮下組織および筋肉・神経・血管までの損傷:
神経損傷のため無痛、血管損傷により患部が蝋のように白い、または炭化により黒くなる。皮膚組織が壊死するため自然治癒(皮膚の自己再生)はなく、皮膚移植による治療がおこなわれる。
日常生活で多い軽度のやけどと応急処置
日常で最も多く見られる”やけど”は強力な紫外線による日焼け、調理時の油ハネやアイロンなどが挙げられます。「炎天下の外出により肌が赤くヒリヒリと痛い」「指がアイロンに触れてしまった」また「熱い飲み物や食べ物で上あごの皮がむける」など、誰しもが一度は経験したことがあるのではないでしょうか。
これらの日常生活で起こるやけどには、応急処置が重要となります。一刻も早く流水で冷やし、やけどの悪化を食い止めましょう。衣服の上から熱源が触れ、やけどを生じた場合は衣服の上から流水で冷やすことが大切です。やけどが生じた部位によって異なりますが、15〜30分程度は冷やし続け、冷やしていないと痛い、また痛みが治まらないようであれば病院で治療をおこないましょう。なお、病院へ行くまえに市販の薬(塗り薬)などの使用は、診察や治療の妨げとなるため避けてください。
高温やけどだけでなく低温やけどにも注意
高温やけどと同様に低温やけどにも注意が必要です。低温やけどとは、発熱カイロや湯たんぽなど比較的低温(40〜50℃)なものに長時間、接触することで生じるやけどのことです。低温やけどは高温やけどと異なり自覚症状に乏しく、気づいた時には真皮層や皮下組織までを損傷しているケースも少なくありません。
低温やけどは皮膚の薄い乳幼児や高齢者、また自身で身体を動かすことができない方などは、とくに注意が必要です。
やけどのヒリヒリはいつまで続く?
やけどの痛みは、やけどの深度(状態)によって異なります。表皮層までのやけどであれば数日程度、ヒリヒリとした赤みをともなう痛みが続くでしょう。
真皮浅層までのやけどは1〜2週間程度、真皮深層までのやけどであれば強い痛みが1ヶ月程度は続き、「痛みで寝れない」といったケースも多く見られます。この時、湿布や冷却シートなどで、やけど患部を直接保冷することは悪化を招く恐れがあるため避けてください。
やけどによる水ぶくれが破れた時の手当
真皮層までのやけどは水ぶくれをともなうケースがほとんどです。水ぶくれとは医療用語では水疱(すいほう)といわれ、皮膚刺激や組織損傷により表皮下(もしくは表皮中)に、たんぱく質の混ざった水分が溜まり膨らんだ状態を表します。細菌感染を予防するためにも、水ぶくれが生じた際は無理に潰すことのないよう注意しましょう。
万が一、水ぶくれが破れてしまった場合は、清潔なガーゼで染み出す液体を優しく抑えましょう。液体が入っていた水ぶくれの皮は無理に剥がさず、ワセリンを塗布した後キッチン用ラップで保護し、すみやかに病院で治療をおこないます。なお、破れた水ぶくれ部位にガーゼや絆創膏を使用すると、張り替えの際に皮膚がむけることもあるため、ラップによる応急処置が推奨されています。
皮膚科では抗生物質を含有するゲンタシン軟膏やクリームなどが処方され、より早い治癒を目指すことが可能です。やけどによる水ぶくれが破れた際は、必ず医師の診察を受けましょう。
やけどの治癒過程と痛み・赤みが治まる期間
やけどの赤みやヒリヒリとした痛みなどが治まる期間は、やけどの深度や応急処置によって異なります。また、日常生活の中で多く見られる深度Ⅰ〜Ⅱ度(真皮浅層)のやけどは、数日から1ヶ月程度で治るとされています。
浅いやけどの場合は上皮化といい、皮膚損傷(やけど)部位の周囲の細胞が損傷表面に広がり、正常な皮膚へと自然治癒します。
一方、深いやけどの場合は瘢痕治癒となります。上皮化と異なり、やけどによる損傷部位が縮み小さくなることで治る自然治癒です。しかし損傷部位が縮む際に、ひきつれが起こることも少なくありません。また瘢痕の範囲が大きいと瘢痕拘縮といい、顔の表情や体の動きが制限されてしまいます。
やけどの治癒過程では、かゆみが生じることも多く見られます。「やけどの治りかけがかゆい」「ピンク色の新しい皮膚をかき崩してしまった」など、治癒過程に起こるかゆみはステロイドなどで止めることが可能です。やけどを一刻も早く治すためにも、損傷部位に刺激を与えることは避けましょう。
やけどによる細菌感染と危険な民間療法
Ⅱ度(2度)以上のやけどは真皮層まで組織を損傷した状態です。この時、最も注意が必要なことは”細菌感染”とされています。損傷部位に細菌が感染することにより、合併症を引き起こし重症化することも少なくありません。細菌感染により損傷部位の治癒も遅れるため、水ぶくれをともなうやけどは必ず、病院での治療が必要です。
やけどの際、アロエ(多肉植物)を使用する民間療法も多く見られます。しかしアロエによるやけど治療は細菌感染の可能性が非常に高いことから使用は避け、すみやかに医師の診察・治療を受けましょう。
やけどと糖尿病の危険な関係
糖尿病をお持ちの方は、低温やけどを起こしやすいとされています。糖尿病が進行すると神経障害を生じるため、温度に対する皮膚の感覚が鈍くなり、カイロや湯たんぽなどを長時間使用して低温やけどを起こすケースも少なくありません。また、糖尿病の方は血行が悪く通常よりも治癒に時間がかかることから、お風呂の温度や暖房器具などの取り扱いには注意しましょう。
茶色いやけど跡からケロイド状のやけど跡までの治し方
Ⅱ度(2度)以上のやけどは真皮層まで皮膚組織が損傷するため、やけど跡となるケースも少なくありません。皮膚科では一般的に血行促進作用のあるヒルドイドなどのヘパリン類似物資が処方され、やけどによる色素沈着やケロイドの治療をおこないます。
茶色いシミのようなやけど跡であれば、美容皮膚科などでレーザー治療という方法もあります。しかしこれらは自費治療となり、やけど跡の状態や範囲によっては高額となるため医師と相談のうえ、検討するとよいでしょう。
時間が経過したやけど跡の治療はヒロクリニック形成外科・皮膚科へ
やけどは応急処置などの初期対応がとても重要です。すぐに流水で冷やし、水ぶくれが生じた際はすみやかに病院での治療をおこなうことで、症状悪化を抑えることができるでしょう。
幼少期の頃のやけど跡が大人になってから気になる、といった方も多くいらっしゃいます。茶色の色素沈着やケロイド状の皮膚の盛り上がりなど、時間が経過したやけど跡もある程度は消すことが可能です。
また、10年以上経過した古いやけど跡から悪性皮膚腫瘍(皮膚上皮がん)が発生することがあります。出血や盛り上がりなど、皮膚の異常に気がついた場合は必ず皮膚科を受診しましょう。
やけどが生じた際はもちろん、時間が経過したやけど跡のお悩みについてもヒロクリニック形成外科・皮膚科へご相談ください。
【参考文献】