湿疹

湿疹は体の外や中からの様々な刺激が原因になり、皮膚に炎症が起きてしまう病気の総称です。自然に治ってしまうことも多いですが、治りにくい・症状が強いなどご自身で対処しきれない場合は早めに皮膚科を受診しましょう。

湿疹(皮膚炎)はありふれた病気


肌に赤み・ブツブツ・水ぶくれなどができ、かゆくなってくる湿疹は、誰もが経験したことのある病気だと思います。
皮膚科外来を訪れる患者さまのうち実に18.67%は湿疹と診断されているとも言われているほど、湿疹は非常にありふれた病気です。
ちなみに湿疹は皮膚に炎症が起きる病気のため、皮膚炎と呼ばれることもあります。

湿疹の原因


それだけ湿疹の患者さまが多いのはなぜか。
それは、湿疹が年齢や性別関わりなくできる病気であることや、湿疹の原因が多岐にわたることなどが理由として考えられます。
では実際肌に湿疹を起こす原因や、肌に刺激を与えてかゆみを引き起こす要因にはどのようなものがあるのでしょうか。
代表的なものをいくつかご紹介していきます。

乾燥


皮膚は水分の蒸散を抑える様々なメカニズムをもつことで、いわゆる潤いのある健康な肌を保っています。
しかし加齢や間違ったスキンケアなどによって肌が乾燥すると、わずかな刺激にもかゆみを感じるようになり、湿疹もできやすくなってしまいます。
乾燥しやすい季節は特に、入念に保湿することを心がけましょう。

汗・よだれ・尿などの体液


汗・よだれ・尿などは自身の中から出てくる体液ですが、肌への刺激となってかゆみを引き起こすことがあります。
これは、体液に含まれる老廃物や塩分などが主な原因です。
赤ちゃんや寝たきりの高齢者では皮膚のバリア機能が低いこともあり、口周りやオムツの内部に湿疹ができやすいのはこういったことが理由です。
健康な成人でも汗をかいたまま放置すると、細菌や真菌が増殖して異汗性湿疹(あせも)ができる原因になります。
また汗が金属のアクセサリーと接触することで金属がイオン化し、かぶれや金属アレルギーをもたらすことも知られています。
汗をかきやすい時期には、汗をこまめに流したり拭いたりして対策しましょう。

虫さされ


虫に刺された部分が腫れてかゆくなることはよくありますが、これも湿疹の一つです。
虫の毒性や刺激によってヒスタミンという化学物質が刺された部分に集まり、かゆみや炎症を引き起こします。
ちなみに患者さまに「刺された虫の種類はわからないか?」とご質問をいただくことがありますが、湿疹の見た目から虫の種類を特定するのは困難であることがほとんどです。

植物・花粉


かぶれやすい植物に触れてできる湿疹(接触皮膚炎)もあります。
漆(ウルシ)などはかぶれやすい植物として有名で、皮膚炎を発症すると強い炎症を生じて、数日から数週間かゆみが続くこともまれではありません。

金属類


従来ニッケルなどのイオン化しやすい金属が原因となることが多かったですが、近年では金によるアレルギーも増えています。
アクセサリーをつける部分に湿疹ができやすい場合には、要注意です。

その他


この他にも日光や化学物質など、世の中には肌への刺激があふれています。
人によっては特定の刺激でダメージを受けやすい場合もあるので、必要に応じて対策をしていきましょう。

湿疹の診察


続いて湿疹に対する診察の流れ(診察・検査)についてご説明します。

問診・身体診察


湿疹の診察では、まず初めに問診や身体診察を行います。
問診とは患者さんから話を聞くこと、身体診察とは実際に患部を見たり触れたりする診察方法のことです。
多くの場合、湿疹の診察には特別な検査を必要とせず、基本的には問診や身体診察で診断することが可能です。
問診では主に

・どのような皮膚症状か
・発疹の場所
・症状の時間経過
・きっかけの有無
・家族にも同様の症状がないか

などを確認し、原因を探ります。
また原因を特定する目的の質問だけでなく、他に飲んでいる薬やアレルギー歴なども確認して治療に役立てます。
次に、身体診察は皮膚科の診察において非常に重要です。
視診では皮膚症状の性状や分布を医師が直接見て確認します。
全身に湿疹ができている場合には、可能な限り全身を観察します。(プライベートな部分には最大限配慮します。)
その上で、必要に応じて触診も行います。
担当医の方針にもよりますが、問診と身体診察は同時並行で行われることもあります。
身体診察をした上で湿疹以外の病気の可能性が考えられる場合には、この時点で血液検査や皮膚生検(ひふせいけん)、パッチテストなど追加の検査を検討します。
また一度湿疹と診断しても、治りが悪い場合には他の病気の可能性を再度検討します。

検査:皮膚生検


皮膚生検とは、皮膚で何が起こっているかを確認するため皮膚の一部を切り取り、皮膚の断面を顕微鏡で確認する検査です。
湿疹が治りにくい場合や、湿疹以外の病気の可能性を検討している時など、必要に応じて行います。

検査:パッチテスト


接触皮膚炎(かぶれ)の原因となる物質を探る時に行う検査です。
背中や腕の皮膚に被疑物質を2日間はりつけた後、数日かけて皮膚の反応をみて判断します。
原因物質を判明させることができたら、その後は原因物質を避けて生活することで湿疹の再燃を防ぐことができます。

湿疹の治療


湿疹の治療には、症状に応じて

・ステロイド外用薬
・非ステロイド性抗炎症外用薬
・抗ヒスタミン薬(別名:抗アレルギー薬)

などが主に用いられます。
それぞれの特徴について解説します。

ステロイド外用薬


湿疹の治療にはステロイド外用薬(ぬり薬)が主に用いられます。
ステロイド外用薬は強いものからストロンゲスト・ベリーストロング・ストロング・マイルド・ウィークの5段階にランキングされており、症状の程度や皮疹の場所によって使い分けます。
また軟膏だけではなくクリームやローションなど、他の剤型を使用して治療することもあります。

(例:頭皮の湿疹に軟膏を使用すると髪の毛に軟膏がついて地肌に十分届かないため、ローションを用いる)
のように症状に応じて最適な強さ、最適な剤型を選べるのもステロイド外用薬の特徴です。
また一方で、ステロイドと聞くと副作用が心配になる方もいらっしゃるかもしれません。
ステロイド外用薬の副作用としては皮膚の感染症・ニキビ・色素脱失・血管の脆弱化(ぜいじゃくか:もろくなること)などがありますが、いずれも長期使用に伴って出てくることが多いです。
ステロイドを長期的に外用しなければならない場合はこれらの症状に注意し、気になる症状が見られた場合には早めにかかりつけの皮膚科に相談してください。

非ステロイド性抗炎症外用薬


ステロイドを含まない消炎鎮痛剤の総称であり、炎症を抑えたり痛みを和らげる効果を持っています。
そのためステロイド外用薬を塗る程ではない軽度の皮膚炎や、皮膚がうすくて薬の吸収がされやすい部分などに対して使用されます。

抗ヒスタミン薬(別名:抗アレルギー薬)


ヒスタミンはもともと体内にあるアミノ酸のひとつであり、アレルギー反応を引き起こす神経伝達物質です。
ヒスタミンがヒスタミンH1受容体と結合すると様々なアレルギー症状が引き起こされることが知られており、これは湿疹の病態にも関与しています。
そこでヒスタミンの働きを抑え、湿疹のかゆみを取り除くために用いられる薬が抗ヒスタミン薬(抗アレルギー薬)です。
抗ヒスタミン薬の内服薬には、古くからある「第一世代」と比較的新しい「第二世代」のものがありますが、現在では眠気などの副作用が少ないことから第二世代の抗ヒスタミン薬が使用されることが多いです。
第二世代の抗ヒスタミン薬は非常に種類が多く、普段の肝機能・腎機能、運転の有無、妊娠や授乳の有無、その他内服中の薬などを参考にしながら患者さんごとに適したものを選択します。
また抗ヒスタミン薬には外用できるタイプ(ジフェンヒドラミン塩酸塩外用薬)もあります。
ステロイド外用薬に比べて副作用が少なく、頻回に塗っても問題がないため非常に使いやすい薬です。

まとめ


ここまで、湿疹について解説をしました。
湿疹の多くは適切な治療によって改善します。
湿疹でお困りの場合には、是非一度皮膚科までご相談ください。


【参考文献】
・古江増隆他:本邦における皮膚科受診患者の多施設横断四季別全国調査.日皮会誌119:1795-1809,2009
・接触皮膚炎診療ガイドライン2020

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