ctDNA(循環腫瘍DNA)とCTC(循環腫瘍細胞)

ctDNA(循環腫瘍DNA)CTC(循環腫瘍細胞)は、どちらも血液中で検出できるがん関連のバイオマーカーですが、いくつかの点で異なります。それぞれの特徴、利点、役割について比較して説明します。

1. ctDNA(循環腫瘍DNA)とは

ctDNAは、がん細胞が死滅して分解された際に血液中に放出されるDNAの断片です。これらの断片には、がんに特有の遺伝子変異が含まれており、がんの診断や治療モニタリングに利用されます。

  • 発生の仕方:がん細胞がアポトーシスやネクローシス(細胞死)を起こした際に、その細胞からDNAが血中に放出されます。
  • サイズ:DNAの断片であり、非常に微小です(通常、100~200塩基対の短い断片)。
  • 検出方法:PCRや次世代シーケンシング(NGS)などの分子生物学的手法によって検出されます。
  • 利点:低侵襲で検出が可能であり、腫瘍の遺伝子変異を迅速に分析できるため、がんの遺伝的特徴を把握するのに有効です。また、特定の部位に限定されない全身のがんの情報を提供することが期待できます。
  • 主な用途:がんの早期発見、遺伝子変異の同定、治療効果のモニタリング、再発や転移の早期発見に使用されます。

2. CTC(循環腫瘍細胞)とは

CTCは、腫瘍から血液中に遊離しているがん細胞そのものです。がん細胞が血管内に侵入し、血液を循環している状態で、主にがんの転移に関与しています。

  • 発生の仕方:がん細胞が腫瘍から剥がれて血管に入り込み、血流中を移動します。これにより、がん細胞が他の臓器に転移する可能性があります。
  • サイズ:CTCは完全な細胞であり、通常10~20μmの大きさで、血液中の他の細胞よりも大きめです。
  • 検出方法:CTCの検出には、血液中のがん細胞を捕捉するために、物理的または生化学的な手法が用いられます。代表的な方法として、細胞の大きさや表面マーカーを使ったフィルタリングやフローサイトメトリーがあります。
  • 利点転移のリスクを評価できる可能性があり、がん細胞の全体的な挙動を直接観察できます。また、がん細胞の表面マーカーの解析により、治療標的を特定することが可能です。
  • 主な用途:がんの進行状況の評価や転移のリスク評価、治療効果のモニタリングに使用されます。

3. ctDNAとCTCの比較

特徴ctDNA(循環腫瘍DNA)CTC(循環腫瘍細胞)
構造DNAの断片完全ながん細胞
発生がん細胞が死滅し、DNAが血中に放出される腫瘍細胞が血流に入り込む
サイズ微小(100~200塩基対)細胞サイズ(10~20μm)
検出方法PCR、NGSなどの分子生物学的手法フィルタリングやフローサイトメトリーなど
検出の主な目的がんの遺伝子変異の検出、治療モニタリング転移の評価、がん細胞の挙動観察
利点非常に感度が高く、遺伝子変異を迅速に分析可能がん細胞自体の挙動を把握できる
主な用途早期発見、遺伝子変異の同定、治療効果のモニタリング転移リスクの評価、治療効果のモニタリング
検出頻度比較的検出されやすい比較的検出が難しい
感度高感度(特にがん遺伝子変異の検出に有効)感度は低め(細胞の捕捉が困難)

4. どちらがより適しているか?

  • ctDNA:がんの早期診断遺伝子変異の特定に特に優れています。がんが進行する前に発見することが可能で、低侵襲で頻繁にモニタリングができる点が利点です。治療法の選択や治療の反応を評価するために有効です。
  • CTC:がんの転移の評価進行度の判断に役立ちます。CTCの検出は難しい場合がありますが、捕捉されたCTCからがんの動態や特徴をより詳細に分析することができるため、転移性のがんや進行したがんの患者に対する治療の評価に使用されます。

5. 併用の可能性

ctDNAとCTCはそれぞれ異なる視点でがんを評価できるため、併用することで、がんの包括的な理解と治療方針の決定に役立つことがあります。例えば、ctDNAを使ってがんの遺伝子変異を検出し、その後CTCでがん細胞自体の性質や転移リスクを評価する、といった戦略が考えられます。

まとめ

ctDNAは、がんの遺伝子変異を非侵襲的に検出するためのツールとして、がんの早期発見や治療モニタリングに適しています。一方で、CTCは、がんの転移リスクや進行の評価において重要な役割を果たします。どちらの方法も、がんの診断や治療において貴重な情報を提供するため、状況に応じて使い分けたり、併用することが効果的です。

記事の監修者