分子標的ワクチン療法

HER2(ヒト上皮成長因子受容体2)は、細胞表面に存在するタンパク質で、細胞の成長や分裂を調節するシグナル伝達に関与しています。特定のがん種、特に乳がん胃がんの一部の患者では、このHER2が過剰に発現されていることが知られています。HER2が過剰に発現すると、がん細胞の増殖、浸潤、転移が促進されるため、これを標的とした治療が開発されていま

HER2を標的とする治療のメカニズム

  1. HER2の働きを抑制: HER2を標的とする治療薬(例:トラスツズマブ、パーツズマブ)は、HER2タンパク質に直接結合し、そのシグナル伝達を遮断します。これにより、がん細胞の成長や生存に必要なシグナルが遮断され、がん細胞の増殖が抑制されます。
  2. 抗体依存性細胞傷害(ADCC): HER2に結合した抗体は、自然免疫系の一部であるNK細胞(ナチュラルキラー細胞)などの免疫細胞を引き寄せ、がん細胞を攻撃させます。このプロセスは抗体依存性細胞傷害と呼ばれ、抗体が免疫系を活用してがん細胞を排除する方法です。

HER2陽性がんの治療薬

  • トラスツズマブ: HER2陽性乳がん治療の主要な抗体で、HER2に対する免疫応答を強化し、がん細胞の増殖を抑制します。
  • パーツズマブ: トラスツズマブと類似の効果を持ち、HER2の異なる部位に結合することで、より強力な抑制効果を発揮します。
  • アド・トラスツズマブ・エムタンシン(T-DM1): トラスツズマブに化学療法薬を結合させた抗体薬物複合体で、HER2に結合後、がん細胞内に化学療法薬を直接運び込むことで、標的細胞を効率的に殺すことができます。

治療の適応と効果

HER2陽性のがん患者において、これらの治療薬は生存率の向上や再発リスクの低減に寄与しています。しかし、全ての患者が同様の反応を示すわけではなく、副作用や治療に対する耐性の発展も考慮する必要があります。治療前にはがん細胞のHER2ステータスを確認し、適切な患者に対して最も効果的な治療オプションを選択します。

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