がん細胞は、免疫系からの攻撃を逃れるためにいくつかの戦略を採用します。これらの戦略は「免疫逃避」として知られ、がんの進行と生存を助ける要因となります。以下に、がん細胞が採用する主な免疫逃避戦略について説明します。
抗原提示の低下: がん細胞は、その表面の主要組織適合性複合体(MHC)分子の発現を減少させることがあります。MHC分子は、免疫系のT細胞に対して細胞内のタンパク質断片を提示する役割を持っています。MHCの発現が低下すると、T細胞はがん細胞を識別しにくくなります。インターフェロンなどの治療薬を用いてがん細胞上のMHCクラスI分子の表現を増加させ、がん細胞の免疫系による認識と破壊を促進する方法を試みています。例えば、インターフェロン治療は、がん細胞がMHC分子をより多く表現するよう促し、結果として免疫細胞ががん細胞をより効果的に攻撃できるようにすることが知られています。
免疫抑制細胞の誘導: がん細胞は、腫瘍微環境内で免疫抑制細胞(例:調節性T細胞、マイクロファージなど)を招集または活性化することによって、免疫応答を抑制することができます。これらの細胞は、免疫応答を弱めるサイトカインを分泌し、効果的な免疫攻撃の阻害を助けます。
- 調節性T細胞(Treg細胞): Treg細胞は、免疫応答を抑制し過剰な免疫反応を防ぐ役割を担っています。がん細胞は、腫瘍微環境内でのTreg細胞の増加を促す因子を分泌することがあります。例えば、がん細胞から放出されるTGF-β(トランスフォーミング成長因子ベータ)やIL-10などのサイトカインは、Treg細胞の拡大と機能の向上を促進します。これにより、Treg細胞が免疫応答を抑制し、サイトトキシックT細胞のがん細胞への攻撃を阻害します。
- 骨髄由来抑制細胞(MDSCs): MDSCsは、がんの進行に伴い数が増加する一群の免疫抑制細胞です。これらの細胞は、アルギナーゼ、iNOS(一酸化窒素合成酵素)、およびROS(活性酸素種)などの分子を産生し、これによりサイトトキシックT細胞の増殖や機能を抑制します。また、MDSCsは免疫チェックポイントタンパク質の発現を促進し、免疫回避をさらに強化します。
- 腫瘍関連マクロファージ(TAMs): TAMsは、がん細胞によって誘導されたマクロファージで、その多くは抗炎症的なM2型フェノタイプを示します。M2型マクロファージは、抗炎症サイトカインの産生を促進し、免疫抑制の微環境を形成します。これにより、効果的なT細胞応答が抑制され、がん細胞の生存と増殖が支援されます。
免疫チェックポイントタンパク質の利用: PD-L1(プログラム死リガンド1)のような免疫チェックポイントタンパク質をがん細胞が表現することもあります。これらのタンパク質は、T細胞の活性を抑制することができ、免疫系ががん細胞を攻撃する能力を低下させます。
炎症の誘導と利用: 炎症は、正常な組織の修復と再生の過程において重要な役割を果たしますが、がん細胞は炎症反応を利用して自らの成長や生存を促進します。炎症性サイトカインや化学誘引物質が、免疫抑制や腫瘍細胞の増殖と生存に寄与することがあります。
がんの免疫逃避戦略を理解することは、効果的な免疫療法の開発にとって非常に重要です。この知識を基に、PD-1やCTLA-4の阻害剤のような免疫チェックポイント阻害薬や、その他の免疫系を強化する治療法が開発されています。これらの治療法は、がん細胞が採用する逃避戦略を無効化し、より効果的にがんと戦うためのものです。