がんウイルス治療

がんウイルス治療、またはオンコリティックウイルス療法は、遺伝子改変されたウイルスを用いて特定のがん細胞を攻撃し、破壊する新しい形式のがん治療です。このアプローチでは、通常、ウイルスががん細胞を感染させ、複製する過程で細胞を破壊し、周囲の正常細胞にはほとんどまたは全く害を及ぼさないように遺伝子改変が施されています。

オンコリティックウイルス治療のメカニズム

  1. 選択性: オンコリティックウイルスはがん細胞特有の生物学的特性を利用して、正常細胞よりもがん細胞に感染しやすく設計されています。これはがん細胞の特定の受容体の過剰発現や、がん細胞特有のシグナル伝達経路の活性化などに基づいています。
  2. ウイルスの複製と細胞の破壊: 感染したがん細胞内でウイルスが複製を始めると、最終的には細胞が破裂し、死亡します。このプロセスは、周囲のがん細胞にもウイルスを広げ、さらなるがん細胞の破壊を促進します。
  3. 免疫応答の誘発: がん細胞が破壊される過程で、がん細胞由来の抗原が露出し、体の免疫系がこれらの抗原を標的として認識するようになります。これにより、ウイルスだけでなく免疫系もがん細胞を攻撃するようになり、治療効果が増強されます。

オンコリティックウイルス治療の例

  • タリモジーン・ラヘルパレプベック(Imlygic®、一般名: T-VEC): メラノーマ治療用にFDAに承認されているオンコリティックウイルスです。単純ヘルペスウイルスを改変しており、直接がん組織に注入され、感染したがん細胞を破壊しつつ免疫系の活性を促進します。

治療の利点と限界

  • 利点: 特定のがん細胞のみをターゲットにするため、正常細胞への影響が少ない。また、免疫応答の誘発により、治療効果が長期間持続する可能性があります。
  • 限界: 全てのがんタイプや進行がんに対して効果的であるわけではなく、ウイルスが免疫系によって早期に除去されることがあります。また、ウイルスへの既存の免疫反応がある患者では効果が低下する可能性があります。

がんウイルス治療は、がん治療の分野において依然として研究開発が進められている比較的新しいアプローチです。臨床試験を通じて、さまざまながんタイプに対する安全性と有効性が検証されています。

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