髪の毛ってどうして枝毛になるの?科学で解き明かす“スプリットエンド”のひみつ

枝毛

この記事の概要

「なんで枝毛ってできるの?」そんな素朴な疑問を、本格的な科学が解決!実は、髪の毛の中には見えない力がたくさんかかっていて、それが原因で枝毛ができちゃうんです。この研究では、髪の毛がブラッシングなどでどんな力を受けて、どこから裂けていくのかを詳しく調べました。髪の質やブリーチなどの影響で、枝毛のなりやすさも変わってくるんです。きれいな髪を保つヒントが、科学の中に隠れているかも!

Taylor, D., Barton, E., Duffy, I., Enea-Casse, R., Marty, G., Teeling, R., & Santoprete, R. (2024). The biomechanics of splitting hairs. Interface Focus, 14(3), 20230063. https://doi.org/10.1098/rsfs.2023.0063

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はじめに

髪の毛が先端から裂けてしまう「枝毛(split ends)」は、非常に一般的な現象です。多くの研究が髪のダメージについて報告してきましたが、枝毛がどのような力学的な仕組みで起こるのかについては、十分に理解されていません。その理由のひとつは、実験室で枝毛を再現し、定量的に測定できるような標準化された試験方法がこれまで存在しなかったことです。

この研究では、髪の毛が絡まっている状態でブラッシングされたときに発生する複雑な応力(stress)環境を模倣するために、新たに3種類の機械的試験法が開発されました。これらは「ループ引張試験(loop tensile test)」「可動ループ試験(moving loop test)」「可動ループ疲労試験(moving loop fatigue test)」と呼ばれます。これらの試験を通じて、髪の種類や化学処理の違いが枝毛発生にどのように影響するのかを、より詳しく調べることが可能になりました。

ヘア

髪のサンプルと研究デザイン

本研究では、2人の被験者(研究者自身)から採取した直毛のヒト毛髪を使用しました。1人は45歳の女性で、日常的に枝毛に悩まされており、その髪は「低品質毛(low-quality hair)」と分類されました。もう1人は24歳の男性で、枝毛の経験がなく、髪の質も良好だったため「対照毛(control hair)」として用いられました。両者とも髪は直毛で、カーリーヘア(curly hair)のような構造的・機械的に複雑な変異がないことが選定基準でした。

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髪の構造

毛髪の基本構造

ヒトの毛髪は、中心部にある「皮質(cortex)」と、それを覆う「キューティクル(cuticle)」で構成されています。皮質は毛髪の大部分を占め、結晶性のα型ケラチン(crystalline α-keratin)からなる繊維状構造が毛軸方向に沿って整然と並んでいます。これらのケラチン繊維の間には、アモルファス(非結晶性)のタンパク質や脂質を主成分とするマトリックス(matrix)が存在しています。

引っ張る

さらに詳細には、以下の2つの階層構造が重要です。

・「中間径フィラメント(intermediate filaments)」:直径約7ナノメートル(nm)のケラチン分子集合体
・「皮質細胞(cortical cells)」:直径約5マイクロメートル(μm)で、細胞膜複合体(cell membrane complex:CMC)によって接着されています。枝毛や割れ目の多くは、このCMC領域から始まることが知られています。

キューティクルの役割

キューティクルは、β型ケラチン(β-keratin)からなる数層のシート状構造で、屋根瓦のように重なっています。通常は6〜8層からなり、全体の厚さは約3〜4μmです。キューティクルは構造的な強度は低いですが、皮質を外的な損傷や化学的劣化から守る重要な役割を果たしています。

髪

毛髪およびケラチン材料の機械的性質

引張特性(Tensile Properties)

髪の強さを測定するために最も一般的に用いられるのが「引張試験(tensile test)」です。1本の毛髪(strand)を両端から引き伸ばして破断するまでの応力-ひずみ(stress-strain)挙動を測定します。

通常、以下のような機械的特性が得られます:

・ヤング率(Young’s modulus):2~4ギガパスカル(GPa)
・降伏強さ(yield strength):50~200メガパスカル(MPa)
・最大引張強さ(ultimate tensile strength):100~400 MPa
・破断ひずみ(failure strain):20~50%

引張時には初期は弾性的に応力が上昇し、やがて非線形となり、最終的にはα型ケラチンがβ型ケラチンへと相転移しながら体積が増加します。湿度(30~65%の相対湿度)や引張速度の影響も大きく、試験条件によって結果にばらつきが生じやすいことが知られています。

ふんわり

他の試験法と疲労特性(Fatigue Behavior)

毛髪の機械的特性は、ねじり試験(torsion test)や衝撃試験(impact test)、サイクル試験(cyclic test)などによっても調べられています。例えば、以下のような結果が報告されています:

・高応力でのねじりにより20回程度の繰り返しで破断する
・低応力でも数千〜数十万回の繰り返しで疲労破壊が起こる

髪の毛は粘弾性(viscoelasticity)を有しており、速い応力変化に対しては強度や剛性が増す傾向があります。

髪の破壊メカニズムと分類

破損した毛髪を電子顕微鏡で観察すると、小さな表面亀裂やキューティクルの剥離などが初期兆候として現れます。毛髪の破壊は、以下の4種類の断面形状に分類されます:

  • 「平坦破断(flat fracture)」:毛軸に対して垂直な破断面
  • 「階段状破断(stepped fracture)」:横方向と縦方向の両方に亀裂が走る
  • 「繊維状破断(fibrous fracture)」:短い縦方向の亀裂が多数生じ、刷毛のような形状になる
  • 「スプリット(splitting)」:一本の亀裂が縦方向に長く進展する

髪の根元付近では平坦破断が多く、毛先では損傷を受けやすくなるため、他の3つの破壊モードが見られやすくなります。特に化学処理や環境ストレスを受けた髪ではスプリットの発生頻度が高まります。

ケラチン材料の異方性(Anisotropy)

毛髪をはじめとするケラチン材料は異方性を示します。つまり、縦方向(毛軸方向)と横方向(直交方向)で強度や剛性が異なります。たとえば:

・中間径フィラメントは、周囲のマトリックスに比べて剛性が100倍以上
・ウマの毛では剛性の異方性が20、動物の蹄(ひづめ)では約10
・ヤマアラシの針では約3.4の異方性が報告されており、ヒトの爪でも縦方向とせん断方向で4倍の違いが確認されています

これらの知見から、縦方向には強く、横方向の応力に弱い構造が共通して見られます。圧縮(compression)には弱く、曲げやねじれで破損しやすいという特性があります。

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処理や環境による影響

髪の毛は日常的なブラッシング、ドライヤーの熱、日光などによって損傷を受けます。化学的な処理(例:ブリーチ、パーマ、染毛)では以下のような影響が確認されています:

・ブリーチ後、最大50%の引張強度低下
・UV(紫外線)照射後の損傷
・システイン結合(cysteine bond)の破壊により皮質の恒久的な弱体化
・水分による水素結合の一時的な低下で柔軟性が増すが、乾燥すれば回復する

これらの効果は機械試験で定量的に確認されており、繰り返しのブラッシングが破断の主因になることが多いです。

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髪の枝毛の力学的要因

絡まった髪における応力と破断

髪の毛が絡まった状態でブラッシングされると、非常に急な曲率が生じ、一部に極めて高い応力(応力集中)が発生します。毛髪が互いに折り重なり、強く曲がることで、表面には引張(tensile)と圧縮(compressive)応力、内部には縦方向のせん断応力(longitudinal shear stress)が同時に発生します。ブラッシングを続けることでこれらの応力が繰り返し加わり、疲労破壊(fatigue failure)が引き起こされるのです。

こうした力学環境が枝毛の直接的な原因であるという仮説は、過去にSwiftらおよびKamathらの研究によって提唱されてきました。特にSwiftは、髪の毛を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)で観察しながら、実際に絡まりを引っ張る実験を行い、縦方向のせん断応力が中心的な役割を果たすと示唆しました。

しかし、これまでの研究は定性的な観察が中心であり、実際に枝毛を定量的に再現・測定する試験法が存在しませんでした。この研究では、それを補完するために「可動ループ試験」などの新たな試験法が導入されました。

髪

試験方法

試験の種類と概要

本研究で使用された4つの試験法は以下の通りです:

  • ストランド引張試験(Strand Tensile Test):40 mmの髪の両端を紙製タグで固定し、一定速度で引き伸ばして破断させます。
  • ループ引張試験(Loop Tensile Test):2本の髪の毛を交差させてループを形成し、上下から引っ張って破断させる試験です。
  • 可動ループ試験(Moving Loop Test):片方の髪の毛を固定し、もう片方の髪を往復運動させてループ内を通過させます。ウェイトを用いて張力を加えます。
  • 可動ループ疲労試験(Moving Loop Fatigue Test):上記の可動ループ試験を繰り返し(1 Hzの周波数)行い、破断までのサイクル数を記録します。

ブリーチ処理の影響

対照毛の一部には、市販のブリーチ製品(過酸化水素とアンモニア水を含有)を用いた化学処理が施されました。処理時間は20分、45分、80分の3段階で、メーカーの推奨時間である45分が基準とされました。処理後、可動ループ疲労試験にかけて髪の挙動を調べました。

測定と分析方法

毛髪の直径は光学顕微鏡により複数箇所で測定され、破断モードはSEMで分類されました。各群間の統計的な有意差の判定にはt検定(有意水準p < 0.05)が使用されました。

鉛筆

結果

引張試験の結果

ストランド引張試験では、低品質毛と対照毛の間に明確な強度差は見られませんでした。ただし、ループ引張試験では、低品質毛の平均引張強度が対照毛より31%低く、p値0.061と有意差に近い傾向が確認されました。

引張試験の代表的な数値は以下の通りです(標準偏差を括弧内に示します):

試験方法毛髪タイプ降伏強さ(MPa)引張強さ(MPa)
ストランド引張対照毛47.1 (±23.0)153.0 (±59.4)
ストランド引張低品質毛57.3 (±27.3)144.2 (±56.7)
ループ引張対照毛記録なし95.2 (±34.5)
ループ引張低品質毛記録なし65.4 (±13.5)

可動ループ疲労試験の結果

疲労試験では、毛髪の疲労耐性に明確な差が現れました。14 gの荷重では、対照毛が平均531サイクルで破断したのに対し、低品質毛は平均207サイクルで破断し、有意差(p < 0.001)が確認されました。26 gでは、低品質毛の約半数が1サイクル以内に破断するなど、静的破壊に近い現象も観察されました。

また、ブリーチ処理を受けた毛髪では、処理時間が長くなるにつれ、疲労耐性が低下する傾向が見られました。45分・80分処理群では未処理群より有意に破断が早くなりました(p = 0.024 および 0.039)。

疲労試験の代表的な結果は以下の通りです:

毛髪タイプ荷重(g)平均破断サイクル数平均せん断応力 τ(MPa)応力拡大係数 K(MPa√m)
低品質毛1420739.20.44
低品質毛268589.11.00
対照毛1453136.20.41
対照毛2625564.20.73

枝毛の発生モードと破断の観察

センター・スプリットとエッジ・スプリット

疲労試験により観察された枝毛(splitting)には、明確に異なる2つのモードが存在しました。

ひとつは「センター・スプリット(center splitting)」で、髪の中心付近から亀裂が発生し、毛髪の軸に沿って長距離にわたり進展するものです。低品質毛ではすべての14 g負荷試験、および多数の26 g試験でこのモードが見られました。亀裂は5 mm以上、時には40 mmの試験全長にわたって延びることもあり、破断後の髪はリボン状に巻き込む形状になりました。

もう一方は「エッジ・スプリット(edge splitting)」で、髪の表面(特にキューティクルの剥離部)から浅い角度で亀裂が始まり、比較的短くとどまる傾向があります。対照毛ではこのモードが主に観察され、1 mm以下の複数の亀裂が形成された後、そのうちの1つが最終的に破断を引き起こしました。

顕微鏡観察による確認

試験中に定期的にサイクルを中断し、光学顕微鏡で観察したところ、低品質毛の11サンプル中10例でセンター・スプリットが発生していました。対して、対照毛の6例すべてではエッジ・スプリットが主な破断原因であり、中心亀裂はほとんど見られませんでした。

さらに、45分または80分のブリーチ処理を受けたサンプルでは、エッジ・スプリットに加えセンター・スプリットも観察され、特に後者が破断の決定要因になる傾向が強くなっていました。

顕微鏡

力学的解釈と理論的背景

中心からのスプリット:せん断応力による破壊

センター・スプリットの発生には、縦方向のせん断応力(longitudinal shear stress)が主要因となります。3点曲げモデルを単純化して仮定すると、せん断応力τは次の式で表せます:

  τ = 4F / (3πr²)

ここでFは荷重、rは毛髪の半径です。また、亀裂が進展するかどうかは応力拡大係数(stress intensity factor)Kが重要であり、以下の式で表されます:

  K = Qτ√(πa)

Qは形状因子でここでは1と仮定し、aは亀裂の半長(ここではrと同等とみなせます)。

この理論に基づくと、14 g荷重ではKが0.44 MPa√m(低品質毛)と0.41 MPa√m(対照毛)でした。これは、低品質毛では縦方向の微小亀裂が発生・進展するのに十分な応力である一方、対照毛では限界以下であると考えられます。

26 g荷重では、低品質毛のKは1.00 MPa√mに達しており、これは過去の研究(Kamathら)で得られた破壊靭性Kc ≈ 1.1 MPa√mに近く、静的破壊に至る応力レベルと一致します。

表面からのスプリット:混合モードによる成長

エッジ・スプリットでは、最初は表面における引張応力(最大で50%のひずみ)により表面亀裂が生じます。この亀裂が毛軸方向に進展する際には、せん断変形(mode IIとmode IIIの混合モード)によって応力拡大係数が増加し、亀裂が浅い角度で長く進展することになります。

また、キューティクルの構造(瓦状に根本側に向かって重なる)により、亀裂の進展方向は根本側、すなわち通常のブラッシング方向とは逆になることが多く、これがエッジ・スプリットの進行を助けている可能性もあります。

枝毛あるかな

考察と今後の展望

可動ループ疲労試験は、髪の品質や処理状態の違いを明確に区別できる点で非常に有効な手法であることが示されました。従来のストランド引張試験やループ引張試験では差が不明瞭だったのに対し、この新しい試験では破断モードと破断までのサイクル数に明確な差が見られました。

また、ブリーチ処理によって、対照毛でもセンター・スプリットが出現するようになったことから、化学的処理によって横方向の強度(transverse strength)やせん断耐性(shear resistance)が低下し、結果的に縦割れに弱くなるというメカニズムが明らかになりました。

髪の毛の強度は縦方向においては保持されている一方で、低品質毛では横方向の強度が不十分であり、それが縦方向の割れ(スプリット)を引き起こす要因になっていると考えられます。

生えていく

研究の限界と今後の課題

本研究にはいくつかの制限があります。例えば:

・引張試験と疲労試験で使用された変位速度や周波数は1種類のみで、ひずみ速度の影響を考慮していません
・湿度や温度といった環境条件は一定に保たれておらず、影響評価ができていません
・衝撃を伴う実際のブラッシング動作を完全には再現していません
・被験者は2名のみ、いずれも直毛であり、他の髪質(例:波状毛、縮毛など)への適用可能性は未検討です

今後の研究では、より多くの被験者と髪質を対象にし、湿度・温度・ひずみ速度・化学処理の違いなどのパラメータを統制した上で、より包括的なモデル化が必要です。また、髪の構造がナノメートルからミリメートルまで多層階層的であることから、それぞれのスケールにおける力学応答と損傷進展を組み込んだ理論モデルの構築が求められます。

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結論

本研究は、毛髪の枝毛発生メカニズムを力学的に解明するための第一歩として、大きな意義を持っています。新たに開発された「可動ループ疲労試験」は、髪の損傷傾向や処理の影響を明確に分類・定量化することに成功しました。

さらに、破断モードとして「センター・スプリット」と「エッジ・スプリット」の2種類を初めて定義し、それぞれが発生する条件と力学的要因を明らかにしました。この結果は、従来の仮説(とくにSwiftの仮説)を裏付けると同時に、今後の理論モデルやヘアケア製品開発に向けた基盤となります。

毛髪は、生物由来の複合材料(biological fiber composite)として非常に複雑な構造と性質を持つ素材です。その力学的特性の理解には、細胞レベルから構造全体までの階層構造を考慮した、多面的なアプローチが必要です。

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記事の監修者