髪が細くなるのは年齢のせい?ホルモンやストレス、細胞の老化が関係するってほんと?

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この記事の概要

「最近、前髪がペタンとして元気がない…」「将来、髪が薄くなったらどうしよう」そんな悩みを持つ老若男女必見!実は、髪のボリュームやツヤには、ホルモンやストレス、体の中で起こる“細胞の老化”が深く関係しています。この記事では、専門的な内容をやさしく解説しながら、髪の将来を守るためにできることを一緒に考えていきます。

Deng, Y., Wang, M., He, Y., Liu, F., Chen, L., & Xiong, X. (2023). Cellular senescence: Ageing and androgenetic alopecia. Dermatology, 239(4), 533–541. https://doi.org/10.1159/000530681

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はじめに

男性型脱毛症(Androgenetic Alopecia、以下 AGA)は、もっとも一般的な脱毛症の一種で、毛包(hair follicle)が徐々に小型化することで進行します。AGAは、主に遺伝的要因とアンドロゲン(androgen、男性ホルモンの一種)への感受性により発症すると考えられてきましたが、近年では老化(ageing)との深い関連も指摘されています。特に、細胞老化(cellular senescence)と呼ばれる生物学的プロセスがAGAに関与している可能性が注目されています。

AGAの疫学的および臨床的特徴

AGAの発症率は加齢とともに増加しますが、高齢者だけの疾患ではありません。たとえば、シンガポールにおける調査では、AGAは17〜26歳の男性の32%に見られ、80歳以上では100%に達していました。組織学的には、AGAと老年性脱毛症(senescent alopecia)はいずれも毛包の小型化と成長期(anagen)と休止期(telogen)のサイクルの乱れが共通しており、加齢との関係が示唆されています。

さらに、早期にAGAを発症する人は、前立腺がん(prostate cancer)、心血管疾患(cardiovascular diseases)、メタボリックシンドローム(metabolic syndrome)、インスリン抵抗性(insulin resistance)、糖尿病(diabetes mellitus)、高血圧(hypertension)など、老化に関連した疾患のリスクが高いことが報告されています。これらの知見は、AGAが単なる外見上の問題ではなく、体全体の加齢状態を示す指標である可能性を示しています。

細胞老化:老化の中心的メカニズム

細胞老化(cellular senescence)は、テロメア短縮(telomere attrition)、DNA損傷(DNA damage)、ミトコンドリア機能障害(mitochondrial dysfunction)などのストレスに対する応答として、細胞が不可逆的に増殖を停止する状態を指します。老化細胞はアポトーシス(apoptosis:計画的細胞死)には抵抗し、代わりに炎症性サイトカインなど多様な分泌因子を放出する「老化随伴分泌表現型(senescence-associated secretory phenotype、SASP)」を特徴とします。

AGAでは、毛包自体は破壊されていないものの、毛周期のバランスが崩れ、成長期が短縮し、休止期が延長することで、発毛が阻害されます。このような毛周期の異常は、老年性脱毛症や早老症(Werner症候群やHutchinson-Gilford早老症)など、他の加齢関連脱毛症とも共通しています。

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毛包構成細胞における老化

毛乳頭細胞(Dermal Papilla Cells, DPC)の老化

毛乳頭細胞は毛包の基底部に位置し、多くのアンドロゲン受容体(androgen receptors, AR)を持つため、ジヒドロテストステロン(dihydrotestosterone, DHT:最も活性の高いアンドロゲン)の作用を強く受ける部位です。DPCは、発毛促進因子(例:血管内皮成長因子 VEGF、インスリン様成長因子 IGF-1)や、発毛抑制因子(例:TGF-β2、Dickkopf-1)を分泌し、毛周期の調節に関与しています。

もみもみ

AGA患者の薄毛部位から採取したDPCは、非薄毛部位のDPCと比較して、早期に老化表現型を示し、p16INK4αおよびpRbタンパクの発現が増加しています。これは、ARの過剰発現によって誘導されると考えられています。さらに、p53欠損マウス由来のDPCは29代にわたって培養可能であり、老化表現型を示しませんでした。

老化DPCは、発毛誘導能力を喪失し、上皮分化を促進する一方で毛包分化を阻害します。また、インターロイキン6(IL-6)の分泌量が増加し、毛包幹細胞(HFSC)の増殖や毛周期の進行(休止期から成長期への移行)を妨げます。これは、薄毛DPC由来の培養液がマウスの発毛を遅らせることや、IL-6を過剰発現させたマウスで発毛が阻害されることからも裏付けられています。

毛包幹細胞(Hair Follicle Stem Cells, HFSC)の老化

HFSCの老化が直接AGAを引き起こすという証拠はまだありませんが、いくつかの間接的な知見が示唆されています。たとえば、高齢マウスではHFSCの活性化能力が低下し、Wntシグナル伝達系の抑制、DNA損傷の蓄積、HFSCの表現型の変化が観察されています。

HFSCの機能低下と毛の喪失

HFSCは毛包のバルジ領域や外毛根鞘の外層に局在しており、適切なシグナル(主にWnt)によって活性化され、一過性増幅細胞(transient amplifying cells)となり毛を再生します。しかし、加齢によりHFSCは上皮分化を経て皮膚から排出され、毛の脱色(白髪化)や細毛化、脱毛といった老化現象につながります。

白黒

Wntシグナルの抑制

Wnt/β-カテニン経路は毛周期の開始と維持に不可欠です。老化したHFSCでは、このシグナル経路が抑制され、Axin-2やLef-1などのWnt標的遺伝子の発現が低下します。また、β-カテニンの核内移行も阻害されており、Wnt5a-Cdc42経路によって競合的に抑制されています。このCdc42を阻害する薬剤CASINを用いることで、HFSCの若返りと発毛の促進が報告されています。

DNA損傷とCOL17A1の関与

HFSCではDNA損傷マーカー(HSP-27、SOD、カタラーゼ、ATM、ATRなど)の発現が増加しており、DNA損傷によってCOL17A1(type XVII collagen)が分解されることでHFSCの維持機能が失われます。これにより、幹細胞性の喪失と表皮方向への分化が促され、毛包の小型化につながります。マウスモデルでは、COL17A1の欠損が加齢性の毛包退行を再現し、その維持が加齢性変化を防ぐことが示されました。

健康な女性

AGAにおけるHFSCのマーカー変化

AGA患者の毛包では、KRT15陽性のバルジ幹細胞は保持されていますが、CD200およびCD34陽性の毛包前駆細胞が減少しています。これは、幹細胞の数は維持されているものの、その活性化と分化能力が失われていることを示唆しています。さらに、AGAの脱毛部位では慢性の炎症と周囲の線維化が観察されており、HFSCの環境(ニッチ)が劣化している可能性があります。

酸化ストレスとAGA

酸化ストレスと老化の関係

加齢は、ミトコンドリアの機能障害、タンパク質の恒常性喪失、細胞間シグナルの異常、細胞老化などを含む一連の生物学的変化を伴います。酸化ストレスは、活性酸素種(reactive oxygen species, ROS)の産生と除去のバランスが崩れた状態で、DNAや脂質、タンパク質の損傷を引き起こします。

ROSは単なる細胞障害因子ではなく、シグナル伝達分子としても機能し、アポトーシス、増殖、老化などを制御します。1956年に提唱されたフリーラジカル理論では、ROSが加齢の主因とされています。

AGAにおけるROSの関与

AGAモデルマウスでは、ROSおよびMDA(脂質過酸化のマーカー)が増加しており、毛乳頭細胞における酸化ストレスマーカー(HSP-27、ATM、ATRなど)も上昇しています。ROSは、毛包の成長抑制因子(TGF-β1、TGF-β2)の分泌を促進し、DPCの老化を進めます。さらに、SASPの形成によって周囲の細胞に炎症と老化を伝播させる悪循環が生じます。

抗酸化防御機構の低下

AGA患者では、SOD(スーパーオキシドディスムターゼ)活性、チオール濃度、抗酸化活性などが低下しており、内因性防御機構が機能不全に陥っている可能性があります。SOD2の欠損マウスは出生後早期に死亡し、SOD1欠損マウスも寿命が短く多くの病変を示します。

抗酸化酵素の構成成分であるマンガン、亜鉛、銅などの摂取が重要であり、AGA患者ではこれらの微量元素の代謝異常が観察されています。抗酸化作用の強い地中海式食事はAGAのリスクを低減することが報告されています。

アンドロゲン受容体(Androgen Receptor, AR)と細胞老化

AGAにおけるARの発現と細胞老化の関係

アンドロゲン受容体(androgen receptor, AR)は、DPC(毛乳頭細胞)に豊富に発現しており、AGAの脱毛部位ではその発現量が特に高くなっています。ARはジヒドロテストステロン(dihydrotestosterone, DHT)と結合することで細胞質から核内に移行し、転写因子として特定の遺伝子の発現を調節します。この働きにより、終毛(terminal hair)が軟毛(vellus hair)へと変化し、毛包の小型化が進行します。

DHTは、AGA患者の前頭部スカルプにおいて、DPCの早期老化を誘導し、細胞形態の変化、β-ガラクトシダーゼ活性の増加(老化の指標)、p16INK4αおよびpRbの発現上昇といった老化マーカーの発現と関連しています。ただし、同じDHTでもヒゲのDPCには同様の老化効果は見られません。これは、解剖学的位置によりARの感受性と分布が異なるためであり、AGA特有の局所的な影響を反映しています。

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加齢関連疾患におけるARシグナルと細胞老化のメカニズム

前立腺がん(Prostate Cancer)

AGAと前立腺がん(PCa)の間には相関があることが複数の研究で示されています。PCaは典型的なアンドロゲン依存性腫瘍であり、ARシグナルが腫瘍形成と進行に関与しています。ARによる細胞老化の誘導には、腫瘍抑制因子であるPML(promyelocytic leukemia protein)、ING1、ING2などが関与し、特にp16INK4A-pRb経路がAR誘導性老化に必須と考えられています。

興味深いことに、ARシグナルはアンドロゲン濃度によって異なる反応を示す「二相性反応(biphasic response)」を持ちます。生理的に低いアンドロゲン濃度ではPCaリスクが上昇し、逆に高濃度では腫瘍増殖が抑制される場合もあります。これを利用した「バイポーラー・アンドロゲン療法(bipolar androgen therapy)」では、アンドロゲン補充と除去を交互に行い、腫瘍縮小を目指します。

ARアンタゴニスト(例:ビカルタミド、エンザルタミド、ダロルタミド)もまた、細胞老化を誘導することが知られており、p16INK4Aやp27KIP1の発現増加、SA-β-gal(老化マーカー)の陽性化といった老化表現型を引き起こします。

その他のがんにおけるARの役割

皮膚がん前駆病変やがん関連線維芽細胞(cancer-associated fibroblasts, CAFs)では、ARの発現が低下しており、このAR低下がCAFの活性化やp53依存的な細胞老化を誘導することが示唆されています。

また、甲状腺がんや食道がんのAR陰性細胞にARを導入し、DHTで処理すると、細胞周期阻害因子(p21、p27)の発現が上昇し、G1期停止および細胞老化が誘導されることが報告されています。

免疫老化との関係

加齢によってアンドロゲンレベルが低下すると、免疫系にも影響が及びます。たとえば、アンドロゲン補充を行っていない高齢マカクザルでは、ナイーブT細胞(CD4、CD8)の割合が減少し、メモリーT細胞の割合が増加します。これは免疫老化(immune senescence)の一例であり、AGAとの関係性が今後注目される分野です。

このように、AR、アンドロゲン、ARアンタゴニストはいずれも細胞老化を誘導する能力を持っており、その影響は疾患の発症促進、治療効果、薬剤耐性といった異なる結果をもたらす可能性があります。AGAにおいても、DHTやARが細胞老化をどのように誘導するかについて、さらなる研究が求められます。

AGAにおける細胞老化を標的とした治療戦略

細胞老化は、がんの抑制など一部の状況では有益ですが、多くの慢性疾患(糖尿病、特発性肺線維症、心血管疾患など)の原因ともなります。そのため、細胞老化を抑制・除去することは新たな治療アプローチとして注目されています。

治療戦略は主に2つに分類されます。

SASP抑制薬(SASP Inhibitors)

SASP(老化随伴分泌表現型)による炎症性因子の分泌を抑制する薬剤です。老化細胞を直接除去するのではなく、周囲の組織への悪影響を軽減することを目的としています。代表的な薬剤には、以下のようなものがあります。

  • ラパマイシン(mTORC1阻害)
  • ルキソリチニブ(JAK1/JAK2阻害)
  • メトホルミン(AMPK活性化)

セノリティクス(Senolytics)

セノリティクスは、老化細胞を選択的に死滅させる薬剤群で、近年特に注目されています。ダサチニブ(dasatinib:チロシンキナーゼ阻害薬)とケルセチン(quercetin:植物由来のフラボノイド)の併用(D + Q)は、加齢関連疾患での効果が実証されています。

AGAにおいても、ケルセチンは中医学由来の育毛処方に含まれる主成分のひとつとして注目されています。また、DHTで誘導されたDPC老化モデルでは、cyanidin 3-O-arabinosideという物質がミトコンドリアROSの蓄積を抑制し、細胞老化を改善、毛周期の回復に寄与することが報告されています。さらに、arctiinやtroxerutinといった天然成分にも、過酸化水素(H2O2)によるDPC老化を抑制する作用があるとされています。

これらの自然由来化合物を活用することで、AGAにおける老化関連メカニズムを直接的に検証し、治療法として応用する可能性が広がっています。

結論

AGAは単なるホルモン依存性・遺伝性疾患ではなく、老化という生物学的プロセスとも密接に関連していることが明らかになってきました。DPCやHFSCの老化、酸化ストレス、アンドロゲンシグナルの増強が、毛包の機能低下と小型化に寄与しています。

今後は、細胞老化を抑制・逆転させる戦略、老化細胞の除去(セノリティクス)、炎症性分泌の抑制(SASPインヒビター)といった多角的アプローチを通じて、AGA治療法が飛躍的に進展することが期待されます。ただし、これらのメカニズムの詳細を明らかにし、安全で効果的な臨床応用につなげるための研究が、今後の課題として残されています。

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記事の監修者